第53話:カウンター炸裂! 正気に戻った王女の哀れな(?)末路
ドゴォォォォォォォン!!!
レジスタス帝国のきらびやかな皇宮、その最深部にある一室で、凄まじい爆発音が響き渡った。
「ぎゃあああああああッッ!?」
妹のエレノアに精神操作の呪いをかけ、糸の向こうでほくそ笑んでいた黒幕――過激派の第一皇子(エレノアの兄)は、魔術回線を逆流してきたユキの特大聖光魔術を脳頭部にダイレクトに喰らい、吹き飛んで壁へと激突した。
髪の毛はチリチリに焼け焦げ、持っていた制御用の魔導具は粉々に砕け散る。
「な、何だこの常軌を逸した威力は……! 妹を操って王宮の仲を裂く計画が……一瞬で、ただの物理爆撃で返されたというのか……っ!」
黒幕の皇子が白目を剥いてその場に崩れ落ちた瞬間、彼が世界中に張り巡らせていた傀儡のネットワークは、完全に機能停止(強制終了)となった。
◇◇◇
一方、こちらはギルバートの寝室。
パキィィィィィン……!
エレノアの首の後ろに繋がっていた黒い魔術の糸が、ガラスのように儚く砕け散った。
それと同時に、彼女の目に宿っていたギラギラとした不自然な強欲さの光が消え、すうっと澄んだ本来の瞳へと戻っていく。
「……え? あ、あれ……? 私、どうしてこんな薄着で、ギルバート殿下の寝室に……?」
エレノアは自分のネグリジェ姿と、周囲の破壊された家具(ユキのバリアの衝撃波の跡)を見回し、呆然と呟いた。完全に正気に戻ったらしい。
「エレノア王女。あなたの兄が仕込んだ精神操作の魔術は、今、私の魔法で元から叩き潰しておきましたわ。……ご自分が何をしようとしていたか、覚えていますか?」
私が冷たい、けれどどこか呆れたような声をかけると、エレノアは昼間の傲慢な態度を完全に忘れ、借りてきた猫のようにビクッと肩を震わせた。
彼女の視線は、私の背後から立ち昇る、まだ収まりきっていない純白の凄まじい聖魔力のオーラへと注がれている。
「わ、私……お兄様に言われるがまま、ギルバート殿下を略奪しようと……。でも、それって、こんな……こんな一撃で部屋を半壊させるような、本物の化け物……いえ、凄腕の聖女様がいる場所に、丸腰で突撃させられていたという事ですの……!?」
エレノアはガタガタと震えながら、ソファーの上で小さく丸まった。
彼女の脳裏には、さっき横顔に喰らった「物理バリアビンタ」の凄まじい風圧と痛みが、恐怖のトラウマとして深く刻み込まれていた。データもクソもない、完全な圧倒的武力による分からせである。
「……ユキ。この女、本当にただの操り人形だったようだな。国境侵犯および不法侵入の罪で、我が国の地下牢へぶち込んでおくか?」
ギルバートが冷酷なアメジストの瞳でエレノアを見下ろし、影の触手をピキピキと動かす。
「ひっ、ひぃぃぃ! ごめんなさい! 悪気はなかったのです、ただお兄様に騙されて……っ! 殺さないで、地下牢だけは嫌ですわぁぁ!」
涙目になって本気で命乞いを始める隣国の王女。
そんな彼女をじっと見つめていた私は、ふう、と深くため息をついて、背後の魔力オーラを完全に霧散させた。
「ギルバート、彼女を牢に入れるのはやめましょう。実家の情報によれば、レジスタス帝国の現皇帝は過激派ではなく、平和的な外交を望んでいるはず。悪いのはあの黒幕の皇子よ。……それに、この王女殿下には、別の形で『お詫び』をさせてあげるべきだわ」
「別の形、とは?」
ギルバートが首を傾げると、私はニヤリと、元システムエンジニアらしい確信犯的な笑みを浮かべた。
「エレノア王女。我が国との全面戦争を回避したいのであれば、明日から私のお手伝い(パシリ)をしていただけますか? ちょうど、1歳半になったレオの育児の手が足りなくて、新しい知育カードのラフ画の切り出しや、おもちゃの片付けの仕様をチェックしてくれる人手が欲しかったのよ」
「え……? い、育児……のお手伝い……?」
エレノアが呆然と私を見上げる。
帝国の最高峰の美を自負していた王女が、まさかの「異世界の王宮での子守り役」への強制ジョブチェンジ命令。
「嫌、ですか?」
私がスマホの画面をトントンと叩きながら、ニッコリと(目が笑っていない)笑顔を向けると、エレノアは背筋をピシッと伸ばし、涙目でぶんぶんと首を横に振った。
「い、嫌じゃありませんわ! 喜んで、喜んでやらせていただきます、お姉様……っ!!」
「……お姉様?」
「はい! 圧倒的な強さと美しさ、そして慈悲の心を持つユキお姉様! 私は今日から、お姉様の忠実な僕(下僕)として、全力でその……育児デバッグとやらを全ういたしますわ!」
恐怖のあまり、脳内のプロトコルが完全にバグってしまったエレノアは、まさかの私への「舎弟化・心酔OS」を起動させてしまったのだった。
こうして、深夜の最悪な泥沼の修羅場は、ユキの圧倒的なフルパワー魔法によって一瞬で解決され、なぜか隣国の縦ロール王女が、我が家の新米シッター(パシリ)として陣形に加わるという、予想外の賑やかな展開へとなだれ込んでいくのだった。




