第52話:修羅場を物理制裁! 怒りの正妻バリアと操り糸の暴露
「……ユキ! 違う、これは俺が呼んだわけでは――!」
ギルバートがベッドから飛び起き、見たこともないほど青い顔をして私に手を伸ばす。外では『世界最強の王子』と恐れられる彼が、完全に動揺して取り乱していた。
「ええ、分かっているわ、ギルバート。あなたがこのような裏切りをするはずがないもの。……ただ、少しだけ胸の奥がざわついてしまっただけよ」
私は静かに微笑みながら、薄暗い寝室へと足を踏み入れた。
淑女としての穏やかな笑顔とは裏腹に、足元からはドォォォォォン……と、怒りのボルテージに比例した純白の聖魔力が地響きを立てて噴き上がり始めている。
「あら、言い訳は見苦しくてよ、王太子妃様? 殿下だって、本当は私のような帝国の最高峰の美女に乗り換えたかったはず――」
「王女殿下。人の旦那様に、勝手に触れようとしないでいただけますか?」
私の冷徹な声と共に、部屋の空気が爆発するように弾けた。
「ひゃっ……!?」
エレノアが悲鳴をあげるのと同時に、私はスマホを操作することすらなく、ただ右手をスッと一振りした。
空間に生成されたのは、手のひらの形に限界まで圧縮された、超高密度の『物理バリア』。それを魔法の力で思い切りスイングする。
ぱんッッ!!!! どがぁぁん!!!
強烈な「物理バリアビンタ」を横顔に喰らったエレノアは、華麗なネグリジェ姿のまま横へ何メートルも吹っ飛んで、部屋の高級なソファーに頭から突っ込んだ。
「な、何をするのよこの野蛮な……! 私は帝国の王女ですのよ!?」
「正式な王太子妃のいる寝室へ夜中に忍び込んでおいて、そのセリフは通りませんわ。――ギルバート、ラン、レオを起こさないように防音の結界を最大出力で展開して」
「了解した、ユキ……!」
『うむ、主の怒り、静かだがこれぞまさに本物の覇気だな!』
ギルバートが慌てて闇の防音結界を展開し、子犬姿のランがレオの寝室の扉の前でがっちりとガードを固める。
「さて、エレノア王女。あなたのその強欲な性格はともかくとして――問題は、あなたの背中のそれですわ」
私はポケットからスマホを取り出し、エレノアの胸元で怪しく明滅するペンダントへ画面を向けた。
画面の警告ログには、彼女の精神が外部からの魔術によって操られていることがはっきりと示されていた。
私がスマホから純白の解析レーザーを放つと、ペンダントがパキィィィン! と撃ち抜かれた。
すると、ペンダントの宝石から、ドロドロとした黒い魔力の糸が伸び、エレノアの首の後ろへと繋がっているのが可視化されたのだ。
「な,何これ……!? 嫌っ、何よこの気持ち悪い糸……!?」
「やっぱりね。エレノア王女、あなたはギルバートに色目を使うように、裏組織の過激派皇族から『精神操作の魔術』を仕込まれていたのよ。あなたを泥棒猫として我が国に突入させ、私とギルバートの仲を裂いて、王宮の防衛を内側から崩壊させるための『使い捨ての道具』としてね」
「そんな……私が、利用されていた……!? お兄様が私に『これを着ければ殿下が振り向く』と持たせてくれたのに……っ!」
エレノアが顔を真っ青にしてガタガタと震え出す。どうやら本当に何も知らず、ただの強気な性格を利用されて、都合のいい操り人形にされていたらしい。
「理屈は分かった。だがユキの心を乱し、我が家に不快な罠を持ち込んだ罪は消えない」
ギルバートが冷酷なアメジストの瞳を光らせ、エレノアの足元の影をドロドロと広げた。
「待って、ギルバート。この王女を今ここで処罰するのは簡単だけど、それじゃ敵の思うツボよ。――せっかく見つけた『魔術の送信元』だもの。逆にこれを利用して、裏組織の本体へ、私からの特大の『反撃の魔法』を力ずくで送り返してあげましょう」
私はスマホの画面をタップし、エレノアの首後ろに繋がる黒い糸の魔術回線を、私の聖魔力で無理やり乗っ取った。
「回線の逆探知完了。接続先は、レジスタス帝国の皇宮最深部ね。――人の家庭を壊そうとしたお仕置きよ、まとめて喰らいなさい!!」
私は両手を前に突き出し、部屋が真っ白に染まるほどの超・極大の聖光魔術を、その細い黒い糸に向けてダイレクトに叩き込んだ。
「いっけぇぇぇぇ! ――『正妻の怒り・極大カウンター』――ッッ!!!!」
ピキィィィィィィン!!! と音を立てて、エレノアのペンダントから伸びる糸を通じて、光の爆撃エネルギーが逆流し、帝国の本拠地へと一瞬で射出されていった。




