第45話:セキュリティver2.0開発! 過保護な男たちの仕様変更
「いや、アラカルト公爵。防魔石の配置は部屋の四隅だけでは不完全だ。レオのベビーベッドを中心とした、半径3メートルの円周上に、もう6石……いや12石追加して『完全なる闇の幾何学結界』を構築するべきだ」
「なるほど殿下、一理ありますな! しかしそれでは、ユキのスマホから出力される聖魔力の波動と、殿下の闇魔術が干渉を起こす可能性が微粒子レベルで存在します。ここは、我が家に伝わる魔力中和の触媒をインジェクション(注入)して――」
王宮の会議室では、ギルバートとお父様が、設計図(羊皮紙)を挟んで朝から熱いディスカッション(という名の親バカ暴走)を繰り広げていた。
「はぁ……あそこまでいくと、もう育児部屋じゃなくて、どっかの古代遺跡の最深部よね」
私は、お母様の膝の上でキャッキャとご機嫌に遊んでいるレオの頭を撫でながら、苦笑いするしかなかった。ボロボロになったベビーベッドの修復をお願いしたはずなのに、男たちの手によって、どんどん「対要塞用の最終防衛システム」へと仕様が膨れ上がっている(仕様肥大化)。
『ふん、主よ。奴らの重武装に付き合うのは骨が折れるが、あの防魔石の純度は本物だ。我が本来の姿(聖獣)を顕現させる際の、空間のブレを固定するブースターとしても使えそうだからな、大目に見てやれ』
子犬の姿のランが、お母様から離乳食の余りの干渉(お裾分け)のクッキーを貰いながら、偉そうに念話をしてきた。今回の事件で自分の本来の力をユキのスマホと同期できると分かったランは、意外とこの防衛計画にノリノリだった。
「よし……それじゃあ、私もエンジニアとしての仕事をしなきゃね」
私は『異世界スマホ』を起動し、お父様たちが組もうとしている「物理・魔術の多重ハイブリッド結界」の設計図をカシャリとスキャンした。
前回の事件で痛感したのは、敵がこちらの『未知の魔導(IT技術)』を徹底的に研究してきているということ。位置情報の偽装も、ファイアウォールの内側からの書き換えも、想定外の『禁忌コード』を使われれば、一瞬でシステムダウンに追い込まれる。
(今までの『お気楽チート』のフェーズは終わった。これからは、敵のどんな未知のアクセス(呪詛)も、リアルタイムで検知して自動で遮断・カウンターを叩き込む、最強の防衛OS(バージョン2.0)が必要よ……!)
画面に向き合い、私は寝不足の脳をフル回転させて、新しい防衛コードの構築を開始した。
お父様が提供してくれた最高位の防魔石のログを、スマホのファイアウォールの核へと直結(同期)させる。さらに、ランの聖獣としての固有魔力を『未知のバグ(呪詛)に対するワクチンプログラム』として常駐(バックグラウンド起動)させるように設定していく。
カチカチカチカチ……!
(ポート遮断の自動化! 暗号化キーの10秒ごとのランダム生成! ギルバートの闇魔術との相互認証システム、承認――!!)
私の指先から純白の聖魔力がスマホへと吸い込まれ、画面に【防衛OS:バージョン2.0 アップデート完了】の文字が輝いた。
「よし! これで、たとえ空間ごと隔離されようが、私のスマホとレオのベビーベッド、そしてギルバートの魔力は、常に暗号化された回線で繋がり続けるわ。二度と、あの時のようなフリーズは起こさせない!」
私が拳を握りしめると、会議を終えたギルバートとお父様が、満足げな顔でこちらを振り返った。
「素晴らしいぞ、ユキ。これでお前の魔導と俺の闇、そしてアラカルト家の基盤が完璧に融和した。……レオ、もうお前を脅かすバグはこの世界に存在しない」
ギルバートがレオを愛おしそうに抱き上げ、その額に優しくキスをする。
実家の両親も、その光景を温かい涙を浮かべて見守っていた。完璧な家族の防衛陣形が、ここに完成したのだ。
◇◇◇
しかし、その頃。
国境を越えた先にある、他国の不気味な地下迷宮。
蝋燭の火が揺れる薄暗い部屋の奥で、数人の不気味な影が、クリスタルに映し出された『黒き霧の砦の戦闘ログ(映像)』をじっと見つめていた。
「……なるほど。術式解体師の罠を、まさか『魔力の過負荷』という未知の手法で食い破るとはな。アラカルト家の娘、恐るべき異端の魔導師よ」
一人の影が、低く冷酷な声で呟く。
捕らえられた男が遺したデータを解析し、彼らはすでに、ユキのハッキング技術の「癖」を掴みつつあった。
「術式がダメなら、次は物理だ。彼女の『魔導具』を動かす暇すら与えぬ、超高速の暗殺者を送り込め。我が組織の計画に、あの赤子の魔力は必要不可欠なのだからな……」
王宮が幸福なバージョンアップに沸く中で、裏組織の次なる凶悪な刃が、静かに研ぎ澄まされようとしていた。




