第44話:お騒がせの実家メンバー襲来!? アラカルト夫妻の熱すぎる孫煩悩
黒き霧の砦から無事に王宮へ帰還した翌朝。
寝不足と激戦の疲労で、私とギルバートがレオを挟んでようやく一息ついていた時、寝室の扉が凄まじい勢いでノックされた。
「ユキ! レオちゃん……っ! 無事なの、無事なのねぇぇぇ!!」
「お、お母様!? お父様まで!?」
扉を押し開けて飛び込んできたのは、息を荒くした私のアラカルト家の両親だった。
お母様はいつも以上に髪を振り乱し、お父様は旅装のまま、額に汗を浮かべて大慌てで部屋へと踏み込んでくる。孫が他国の裏組織に攫われたという凶報を聞きつけ、領地から文字通り不眠不休で馬車を飛ばしてきたらしい。
「ああ、よかった……っ! 本当に良かったわ……!」
お母様はベッドの上のレオを見るなり、床に膝をついて大号泣し始めた。そのまま私とレオをまとめて壊れ物のように抱きしめてくる。
「ばぶ? あぅー」
当のレオは、おばあちゃんの突然の襲来にきょとんとしながらも、ちっちゃなおててでお母様の涙を拭うようにペシペシと叩いている。その愛らしい仕草を見て、お母様はさらに「なんて良い子なのぉ!」と涙を崩壊させていた。
「よくぞ無事で戻ってきてくれた、ユキ、レオ。……ギルバート殿下、我が最愛の娘と初孫を守っていただき、アラカルト家を代表して心より感謝申し上げます」
お父様が厳しい表情のまま、ギルバートに向かって深く頭を下げた。
「顔を上げてくれ、アラカルト公爵。すべては俺の不徳の致すところだ。王宮の結界を過信し、敵の潜入を許してしまった。お前たちの大切な家族を危険に晒してしまい、本当に申し訳ない」
眼帯を戻したギルバートが、お父様に対して大真面目に、そして心からの後悔をにじませて頭を返した。
外の世界では『最強の王子』と恐れられる彼が、私の両親の前では完全に「妻の実家に恐縮する旦那様」の顔になっているのが、少しだけおかしくて、同時に愛おしい。
『ふん、今回の件はあの裏組織のコードが小賢しかっただけだ。我という存在がありながら、不覚を取ったのは我も同じ。……おい、そこの父親、そんなに神妙な顔をするな』
ソファの上で、すっかり子犬サイズ(いつもの可愛いマスコット姿)に戻ったランが、前足を組んで偉そうに念話をしてきた。
「おお、ラン様……! 貴方様もレオを守るために戦ってくださったのですね。感謝いたします」
お父様はランにも真摯に礼を言うと、すぐにキリッと目を光らせて、私のスマホと、ボロボロになった『天才魔導ベビーベッド』へと視線を移した。
「――さて、殿下。無事が確認できたところで、ここからは『今後の防衛システム』についての具体的なデバッグ(家族会議)を始めましょう。ユキの未知の魔導技術を狙う裏組織がいる以上、これまでのセキュリティでは甘いと言わざるを得ません!」
「あぁ、その通りだ。俺も昨夜から、王宮の物理防御ログを見直していたところだ。アラカルト公爵、お前の領地で採掘される最高位の防魔石を、すべて王宮の基盤に埋め込もうと考えているのだが――」
「素晴らしい! ならば我が家で開発した最新の魔力伝導増幅術式も提供しましょう。これなら、ユキのスマホのファイアウォールとも100%同期できるはずです!」
「よし、ハンスたち職人連合もすぐさま招集しよう。レオのベビーベッドを、いかなる古代呪詛も反射する『絶対無敵の移動要塞』へとバージョンアップさせるぞ」
「話が早くて助かります、殿下……!」
さっきまでのシリアスな空気はどこへやら、お父様とギルバートは、机の上に広げられた砦の防衛マップや魔術数式を前に、もの凄い熱量で親バカ(&ジジバカ)全開のセキュリティ会議を始めてしまった。二人の背景に、メラメラと不気味な過保護の炎が見えるのは気のせいだろうか。
「はぁ……。男の人たちって、どうしてこう、すぐにシステムを重武装にしたがるのかしらねぇ」
お母様が涙を拭い、呆れたように笑いながらレオに特製の離乳食(お母様特製スープ)をスプーンで運んでいる。
「ふふ、本当ね。でも、あそこまで真剣にレオの安全を考えてくれるんだから、元SEとしてはちょっと嬉しいかも」
私はお母様の隣で、久しぶりの実家の温もりに胸をいっぱいにしながら、賑やかになった部屋を見渡した。
裏組織の脅威はまだ消えていないけれど、この最強に過保護な旦那様と、頼もしい聖獣、そして熱すぎる実家の両親がいれば、どんなバグが攻めてきても絶対に負ける気がしない。
「よし……! 私も負けていられないわ。お父様たちのハードウェア(防魔石)に合わせて、スマホの防衛OSを完全にバージョン2.0へアップデート(ハック)しちゃいましょう!」
我が子を腕に抱き直し、私は再び、ママとしてのクリエイティブな野心を燃やし始めるのだった。




