第42話:最奥の儀式室! 起動する大型ゴーレムと母の執念
「レオ――ッ!!」
隠し通路を抜けた先、開けた巨大な儀式室の空間に、私の叫びが響き渡った。
部屋の中心。不気味に明滅する魔法陣の真ん中で、レオが泣き疲れたのか、小さく身を縮めて眠っている。その小さな身体から、透き通るような純白の聖魔力が、細いラインとなって部屋の奥に鎮座する『何か』へと吸い上げられていた。
「ハハハ! 間に合わなかったな、アラカルト家の娘よ! 空間を歪める無限迷宮すら突破してくるとは想定外だったが、すでに抽出プロセスは最終段階だ!」
魔法陣の傍らに立つあの術式解体師の男が、狂ったように腕を広げて笑う。
男の背後で、地響きを立てて動き出したのは、石と古びた魔導金属で構築された、見上げるほどの巨躯を誇る『古代の超大型魔導ゴーレム』だった。
レオから吸い上げられた純白の魔力が、ゴーレムの全身の回路をドクドクと巡り、その両目に不気味な赤い光が灯る。
「我が組織が発掘したこの防衛用ゴーレムは、注ぎ込まれた魔力の質に応じてその強度を増す! 生まれながらに規格外の聖魔力を持つこの赤子のエネルギーを得た今、この機体はあらゆる魔術を無効化する無敵の盾となったのだ!」
ズゥゥゥゥン……ッ!!!
ゴーレムが巨大な岩の拳を振り上げ、地面を叩き割る。その衝撃波だけで、周囲の石壁がガラガラと崩れ落ちた。ただの野生の魔獣とは次元が違う、文字通りの『要塞級』の質量兵器だ。
「……ユキ、下がれ」
ギルバートが前に進み出た。彼のアメジストの瞳は完全に冷徹な殺意で満ちており、その背後には、空間を押し潰さんばかりの圧倒的な闇のオーラが立ち上っている。
「あらゆる魔術を無効化するだと? ならば、その絶対の盾ごと、物理的に粉砕して塵に還すまでだ」
『ふん、大言壮語を吐く木偶の坊め。我を本気にさせた報い、その身に刻むが良い!』
巨大な姿のランもまた、その鋭い爪に神聖な魔力を宿し、牙を剥いて低く唸った。
ギルバートの超高密度な闇の斬撃と、ランの放つ烈風の突撃が、同時に大型ゴーレムへと炸裂する。
ドガァァァァァン!!! と砦全体が傾くほどの爆音があがった。しかし、煙の向こうから現れたゴーレムは、体表の魔導金属をガチガチと鳴らしながら、ほとんど無傷のまま再び拳を振り下ろしてきたのだ。
「くっ……!? 本当に、こちらの魔術の波長を完全に弾き返して(相殺して)いる……!」
「ギルバート、ラン! 正面からの力押しじゃダメ! あのゴーレムの動力源は、レオの魔力そのものよ! レオのピュアな聖魔力が『完璧なプロテクト(盾)』の役割を果たしちゃってるの!」
私はスマホの画面を必死にフリックし、ゴーレムの魔力フロー(ログ)を解析した。
画面に表示されるデータは最悪だった。こちらの攻撃が激しくなればなるほど、ゴーレムの自律防衛システムが作動し、さらにレオの魔力を強引に吸い上げるギミックになっている。このまま戦い続ければ、ゴーレムを倒す前に、レオの小さな身体が限界を迎えてしまう。
(攻撃を止めれば私たちが潰される。攻撃を続ければレオの命が危ない。……なんて悪質なシステムを組んでくれたのよ……!)
疲労と恐怖で指先が震える。だが、画面の中で、さっき私が書き換えた『知育カードの通信ログ』が、まだレオの元へとまっすぐに繋がっているのを見た瞬間、私の胸の奥に眠る「泥臭いSEのプライド」が激しく火花を散らした。
(他人が作ったシステムなら、必ず仕様の穴がある。レオの魔力が盾になっているなら、その『接続』を外側から直接乗っ取って(ハックして)、強制切断してやるわ……!)
「ギルバート! ラン! 30秒だけでいい、あのゴーレムの動きを物理的に拘束して! その間に、私がレオの魔力供給ラインを直接デバッグする!」
「了解した。30秒だな……1秒たりとも、あの大質量をお前には近づかせない!」
『主よ、お前のハッキングを信じるぞ! ――おおおぉぉぉぉッ!!』
ギルバートが自身の身体に凄まじい負荷をかけるほどの闇の鎖を展開し、ゴーレムの巨躯を強引に縛り付ける。ランもまた、翼を大きく広げてゴーレムの背後に回り込み、その巨腕を文字通り肉体(爪)で押さえ込んだ。
ギチギチギチ……と、世界最強の二人(一人と一匹)が、己の総力を挙げてゴーレムの動きを物理的に完全停止させる。
残り時間、30秒。
「……お願い、間に合って……!」
私は魔法陣の防壁を突破するため、スマホの処理能力を限界突破させた。指先から血が滲むほどの聖魔力をスマホに注ぎ込み、レオとゴーレムを繋ぐ『魔力抽出コード』の最深部へと、意識ごとダイブした――。




