第4話:奇跡の癒やしと、公爵夫妻からの招待
「うっ……ここは……? 私は斬られて死んだはずでは……」
光が収まると、先ほどまで瀕死だった男性がムクッと起き上がり、不思議そうに自分の身体を見渡した。
「うわぁぁあん! ダリオス! 良かった! 本当に良かったっ!」
女性が男性に激しく駆け寄り、きつく抱きしめる。
「フェリア? 私は死んでいないのか? 私たちは盗賊に襲われていたはずじゃ……」
「この子が助けてくれたのよ。私が斬られそうになっていた所を救ってくれて……貴方の傷も治してくれたの」
泣きじゃくりながらも、必死に現状を説明する女性。パニックを起こさずに凛としているなんて、強い女性だなぁ。
「こんなか弱そうな少女が……。信じ難いが、私の妻を守っていただき心から感謝する!」
立ち上がった男性が、頭を深く下げた。それに倣って、フェリアと呼ばれた女性も頭を下げる。
「あ、いや! そんなに頭を下げないでください! 目の前で困っている人がいるなら、同じ人間同士助け合うのは当たり前です!」
慌てて二人に近寄り、頭を上げてもらう。
「しかし……これは酷い……。皆、酷い傷だ。くっ。皆、私たちのために……」
地面に倒れる護衛の騎士やメイドたちを見つめ、涙を流す男性。
「あ、待っててください! 皆、治しちゃいますね」
私はランが倒した盗賊以外の人たちに次々と触れ、頭の中で「全員治れ!」と強くイメージした。
ぱぁぁぁ……っと再び温かい光が辺りを包み込み、みんなの傷がみるみる塞がっていく。
治した人たちから順に目を覚まし、キョトンとした表情で自分の身体と私を交互に見つめていた。
「信じられない……。瀕死の使用人たちを、皆治してしまうなんて……」
「ダリオス、貴方の傷も相当酷かったのよ。私は泣き叫ぶだけで何も出来なかったのに、あの子が全部治してくれて……!」
ボロボロと涙を流し、息を吹き返したメイドたちに駆け寄るフェリアさん。
みんなが泣いて喜んでいる。あぁ、助けられて良かった。私は少しホッとして、ランのモフモフの身体に寄りかかり、高揚した気持ちを落ち着かせた。
「じゃあ、皆さん。帰り道には気をつけてくださいね。身体の傷は治せても、心の傷は私には治せません。私はこれで失礼します」
ペコリと頭を下げてランの背に跨ろうとすると、
「待ってくれ!! 恩人を簡単に帰すわけにはいかない! 私の屋敷に来てくれないか!?」
「そうよ! 命を助けてくれた方に何もしないなんて、薄情な人間にさせないで!」
ダリオスさんとフェリアさんがこちらに駆け寄り、必死に私を引き止めた。
もう日が落ちかけている。正直、屋敷に一日置いてくれるだけで本当に助かるのだけれど……。
私なんかを屋敷に呼び入れて、不快な思いをさせないだろうか。
「あの……それは嬉しいのですが、私のような者がお邪魔していいのでしょうか……」
人がいる家に、いい思い出などない。
前世の親戚の家がそうだったように、もしかしたらこの人たちにも、あの「汚物を見るような目」で見られるかもしれない。思わず俯いてしまう私に、フェリアさんが優しく微笑み、コテンと首を傾げた。
「お願い。屋敷に来てくれないかしら?」
「……うぅ、分かりました。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」
私が頷いた瞬間、後ろで黙って控えていた使用人たちから「わぁぁあ!」と大きな歓声が上がった。
「お前達! 急いで屋敷へ帰るぞ! 宴の準備だ!!」
「かしこまりました、旦那様!」
「お任せください!」
あっという間に馬車が動き出し、私たちは屋敷へと向かうことになった。
馬車の中を勧められたけれど、私はランの背に乗って行くことにした。仕事以外で人と関わることがなかったから、何を喋ればいいか分からないしね。
ランに跨り、日が落ち始めている遠くの山を見つめる。
夕焼けがオレンジ色にキラキラと輝いている。
「夕焼けって……綺麗だぁ……」
バイトも深夜まで、社会人になっても毎日終電だった私にとって、夕焼けを見た記憶すら朧気だった。
こんな些細なことが、堪らなく感動する。私にとっては、世界が宝石箱のようにキラキラして見えた。




