第3話:聖獣王への名付けと、空からの急襲
湖のほとりで、しばらくランと雑談を交わす。
水たまりに映る自分の姿は、黒い少し大きめのパーカーに白いショートパンツ、赤いキャップと、私のイメージ通りに変わっていた。
パンプスからスニーカーに、バッグもポシェットに変わったおかげで、オシャレを楽しみつつすごく歩きやすくなっている。
そんな私を、大きな白い狼がキラキラとしたエメラルドの瞳で見つめていた。
「主よ。私に名前を付けてくれないだろうか」
「名前? 私が付けてもいいの?」
「あぁ。聖獣は、主に名付けしてもらうことによって『契約』となり、さらなる力が与えられるのだ」
なんだかすごくファンタジーな要素が強い展開だ。
前の世界を考えると、大きな狼と普通に会話できていること自体が不思議だけれど、モフモフで可愛いから何も文句はない。
「うーん……じゃあ、『ラン』でどうかな? 昔、近所で飼われていて、唯一私に懐いてくれた犬の名前なんだ」
誰もが私を汚物を見るような目で見る中、あのワンコだけは私に無条件の癒やしをくれた。
「ラン」
そう名付けた、その瞬間だった。
私の右手と、ランの右前脚に、眩い青い紋章のようなものが浮かび上がり、すっと馴染むように消えた。
「主よ。ランという名、ありがたく頂戴する。これで私と主は契約された」
契約したことで、ランは魔力が安定し、私の影へと自在に潜めるようになった。試しに影に入ってもらい、名前を呼ぶと、シュンッと目の前に召喚できる。まるでゲームの世界みたいで、なんだかワクワクしてくる。
「主よ、乗ってくれ。日が落ちる前に街へ急ごう」
ランが伏せをして、背中への乗るよう促してくれる。
恐る恐るまたがると、ランは風のような速さで走り出した。どんどん変わっていく美しい景色に感動していると、数十分ほど走ったところで、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
(もう少し遠くが見えたらいいのに……。むむ、見えろ……っ!)
魔力を込めて念じてみると、ビュンッと視界が先へ移動するような感覚に陥り、遠くの景色がくっきりと見えた。
「――馬車が、盗賊に襲われてるっ!?」
武器を持った数十人の男たちが、豪華な馬車を囲んでいる。
「主、助けたいか?」
「当たり前だよ! 目の前で殺されそうな人たちを、見殺しになんてできない!」
「流石は我が主。しっかり掴まっていてくれ!」
ランがグッと脚に力を込めると、一気に空へと飛び上がった。空中を蹴り上げ、激しい乱闘の真ん中へと一直線に降り立つ。
「きゃあぁっ!」
今にも剣で斬られそうになっていた、美しいドレス姿の女性。私はランの背から飛び降りると同時に、彼女の前に立ちはだかった。
(お願い、バリア、出てっ!)
ガキィィィン!!
頭の中で強く願うと、目の前に展開した透明な壁が、盗賊の刃を完璧に弾き返した。
「か弱い女性に刃を向けるなんて、許せない!」
「なんだテメーは!? 関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
攻撃を防がれて頭に血が上った盗賊たちが、一斉に私へ襲いかかってくる。
「私の傍から離れないでね」
後ろで震える女性に声をかけ、バリアの安全圏に入っていることを確認する。考えなしに飛び出してしまったけれど、いくら盗賊とはいえ、傷つけるのは怖い。
「威力は加減できないけど……これでもくらえっ!」
襲いかかる盗賊たちに向けて、掌から強風を放ち出すイメージをぶつけた。
凄まじい突風が巻き起こり、盗賊たちがまとめて遥か遠くへと吹き飛んでいく。運が良ければ、どこかの木にでも引っかかっているんじゃないだろうか。
「大丈夫ですか?」
女性の元へ駆け寄ろうとした瞬間、死角である木の影から、もう一人の盗賊がぬっと現れて私に切りかかってきた。
しまっ、バリアが間に合わな――!
「主に刃を向けたことを、後悔しながら逝け」
閃光のようなランの斬撃が走り、盗賊は血を吹き出して倒れた。
「ラン、ありがとう! 助かったよ」
「主を守るのは私の役目だ。気にするな」
ランが頼もしく胸を張る。
しかし、周囲を見渡すと、事態は想像以上に深刻だった。護衛の騎士たちやメイドたちは、すでに切りつけられて地面に倒れ、うめき声をあげている。
そして、ドレスの女性が、血まみれで倒れている身なりのいい男性にしがみつき、必死に泣き叫んでいた。
「貴方!! 嫌よ、しっかりして! 私を置いて行かないで、ダリオス……!!」
男性の傷は深く、普通に考えればもう助からないレベルだった。
だけど――今さっき、ランの怪我を治したあの「力」があれば。
「あの、少しだけ離れてください! もしかしたら、治せるかもしれないの!」
「嫌よ、離れたくない! こんな傷、奇跡でも起きない限り……っ!」
泣き崩れる女性の肩に手を置き、私は真っ直ぐな目で告げた。
「私を信じてください! あなたの大事な人を、私に守らせて!」
私の気迫に圧されたのか、女性はすっと後ろに下がった。
お願い、成功して。さっきの治癒の力が、どうか届いて――!
瀕死の男性に両手で触れ、傷が完全に塞がるイメージを頭に浮かべた瞬間、男性の身体が眩い光に包まれた。




