第37話:爆誕! 天才魔導赤ちゃんはシステムブレイカー
「ぎゃははー! ばぶっ!」
「ひゃあ!? レオ、待って、そこは『チャイルドロック』がかかってるはず……ああっ、またシステム(結界)が強制突破された!」
「おい、大変だユキ! レオが今度は天井のシャンデリアを浮遊魔術(オブジェクト反転)で弄んでいる! 早く俺の闇魔術で部屋の重力を再起動しなければ……っ!」
我が家に天使(長男・レオ)が生まれてから、はや数ヶ月。
王宮の私たちの寝室は、ハネムーンでの戦場よりも遥かに凄まじい「大改修」の現場と化していた。
それもそのはず、私とギルバートの血を引いて生まれたレオは、生後数ヶ月にして、王宮の筆頭魔導師たちが束になっても敵わないレベルの**『規格外の魔術の天才(生まれながらの天才ハッカー)』**だったのだ。
「ばぶー!」
レオがちっちゃなおててをキャッキャと振るたびに、私が前世のIT知識をフル活用して構築した『天才魔導ベビーベッド』のセキュリティ防壁が、ピキピキと音を立てて書き換えられていく。
窒息防止センサーはいつの間にか「花びらが舞い散るエフェクト」にリファクタリングされ、知育カードの星座の絵柄からは、本物の小さな星々がホログラムの枠を超えて部屋中に飛び交っていた。
『まったく、主も金髪王子も不甲斐ないな。これしきの魔力暴走、我が本来の力を使えば一瞬で——んぐっ』
ソファの上で、お腹を上にして寝転んでいた子犬ランが、偉そうに念話をしてきた。だが、その口にはレオによって高速で飛んできた「おしゃぶり」がスポッとジャストミートで嵌め込まれている。
「ぷっ、あはは! ラン、聖獣王としての権威が形無しだよ?」
『ぬ、ぬうう……っ! この赤ん坊、我が「絶対障壁」の隙間を完璧に見切って投げてきおった……! 生後数ヶ月で聖獣王の因果をハッキングするとは、末恐ろしいガキめ……っ』
おしゃぶりをペッと吐き出し、ランは悔しそうに、けれどどこか嬉しそうに小さな尻尾をパタパタと振った。
そう、実はラン、レオにめちゃくちゃ懐かれており、普段は最高の「お守り役兼、最高位の防犯システム」として一番近くでレオを見守ってくれているのだ。
「はぁ……。それにしても、レオの魔力感知が日に日に大きくなっているね。ギルバート、城下町の魔力スキャン(定期検診)の結果はどうだった?」
私がレオを抱き上げ、ミルクをあげながら尋ねると、ギルバートは眼帯の外れたアメジストの瞳を少しだけ翳らせ、私の腰を引き寄せた。
「……あぁ。ユキのスマホナビが検知した通り、ここ数日、国境付近の『魔獣の領域』が異常な活性化を見せている。どうやら、レオが放つ純白の聖魔力と、俺の闇魔術が融合した『至高の魔力ソース』を感知して、魔獣どもの上位個体が引き寄せられているらしい」
ギルバートの大きな手が、私とレオを包み込むように優しく、けれど絶対に離さないという強い執着を込めて握りしめられる。
「だが、心配はいらない。我が国の防衛システムは完璧だ。もしお前たちに指一本でも触れようとする魔獣がいれば、その軍勢ごと、この世界の全データから物理的に消去してやる」
「うん、頼りにしてるよ、パパ。……でも、私のスマホのトラッキングにも、ちょっと不穏な外部アクセス(スパイの影)が引っかかってるのよね。レオの才能を狙って、裏で魔獣の手綱を引いている黒幕が他国にいるのかも」
私がスマホの画面を見つめ、元システムエンジニアとしての警戒ログを走らせていると、腕の中のレオが「あうー?」と小首を傾げて、私のスマホを小さなおててでペシペシと叩いた。
その瞬間、画面に表示されていた国境の広域マップがピキピキと光り、魔獣の軍勢の「進軍ルート」が、完璧な予測演算データとして可視化されていく。
「え……!? レオ、今、ママの代わりにバグの予測エミュレータを起動しちゃったの……!?」
『ふん、さすがは我が認めた主の愛し子だ。パパの過保護とママのチート頭脳をサイコパスレベルで引き継いでいるな』
ランが真の聖獣王としての威厳ある笑みを浮かべ、その背中から、かつて世界を震撼させた神々しいまでの魔力がほんのりと立ち上った。
「よし……! 魔獣の軍勢が攻め込んでこようと、裏で悪い大人が糸を引いていようと関係ないわ。私たちの最高の家族を脅かすバグは徹底的に『ざまぁ』してあげましょう!」
天才魔導赤ちゃんの誕生によって、私たちの新婚生活は、世界を巻き込む「最大規模のドタバタハッキング無双」へと突入していくのだった!




