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王子の心を溶かすのは・・・?〜孤独だった元OL、異世界で最強聖女になって公爵家に溺愛され、呪われた不器用王子を無自覚に救っちゃいました〜  作者: S@Y@


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第36話:臨月、そして新たな命の誕生(システム・デプロイ!)


知育カード盗難事件から数ヶ月。

私のお腹は驚くほど大きく、丸々と膨らみ、今やいつ生まれてもおかしくない臨月を迎えていた。


「ユキ、頼むから歩かないでくれ。お前が動くたびに、俺の心臓が異常なクロック数(鼓動)を刻んで破裂しそうなんだ。移動はすべて俺が抱っこしていくから」


「もう、ギルバート。お医者様ヒーラーからも、安産のためには適度に歩いた方がいいって言われてるんだよ? ほら、ベッドの横まで歩くだけだから、手を繋いでて?」


眼帯の外れたアメジストの瞳をかつてないほど激しくオロオロと揺らし、生まれたての子鹿のように震えているギルバート。世界最強の闇魔術師であり、完璧なセキュリティを誇る次期国王が、私の前ではただの「限界突破したパニックパパ」と化していた。


『主よ、金髪王子の魔力が心配のあまり周囲に漏れ出して、王宮の庭の木々がまた数本枯れたぞ。早く落ち着かせてやれ』


ソファの上で、すっかり大きくなったランが呆れたように念話を送ってくる。


「ふふ、ギルバート、大丈夫。私には、ハンスさんたちと作った最高の『天才魔導ベビーベッド』があるんだから。ほら、見て?」


部屋の特等席に設えられたベビーベッドは、私の『異世界スマホ』と完全に同期リンクを終えていた。

赤ちゃんの生体バイタルを24時間監視する安全センサー、魔力暴走を未然に防ぐ『チャイルドロック機能』、そして昨日最終調整を終えたばかりの、ランの優しい声をサンプリングした『自動子守唄再生システム』。


前世のIT知識と、この世界の魔導技術を融合させた、世界一安全な育児システム(セキュリティ環境)が、すでに完璧に立ち上がっている(デプロイされている)。


「うん、準備は万全……――ッ!?」


その時。

お腹の底から、これまでに経験したことのない、ずしりと重い衝撃と激しい痛みが走った。

足元が濡れる感覚。……破水だ!


「あ、あれ……ギルバート、本当に、きちゃった、みたい……っ」


「ユキ……っ!? 医者だ! 今すぐ世界中の優秀なヒーラーをここに強制転移させろ! 国庫の金をすべて使ってもいい、ユキと我が子を救うんだあぁぁぁ!!」


王宮中にギルバートの絶叫(と凄まじいパニック魔力)が響き渡り、待機していたベテランの治癒魔導師や乳母たちが一斉に部屋へと飛び込んできた。


◇◇◇


それから、どれほどの時間が経っただろう。


「ユキ、ユキ……っ! 俺の手を握れ! 俺の魔力をすべてお前に供給するから……っ、だから、どうか無事でいてくれ……っ!」


「んぐぅぅぅ……っ!! ギルバート、うるさい、ちょっと黙ってて……っ!!」


普段の過保護っぷりはどこへやら、涙目で私の手を骨が軋むほどの力で握りしめるギルバートに一喝を入れながら、私は前世の過酷なデスマーチ(徹夜業務)を思い出していた。


(なによ、あのブラック企業の修羅場に比べたら……愛する人との子供を産む苦しみなんて、最高にハッピーな大仕事よ! 画面の向こうのバグを全部吹き飛ばす勢いで――いっけぇぇぇぇ!!!)


私の体内から、まばゆいばかりの純白の聖魔力がドォォォォンと解き放たれ、部屋全体を温かく包み込んだ。


その瞬間。


「ふぎゃあ、ぎゃあ……っ!ふ ぎゃあぁぁ……っ!!」


静まり返った寝室に、元気いっぱいの、とても高らかな産声が響き渡った。


「お、おめでとうございます……っ! 非常に強い魔力を持った、元気な男の子です……っ!!」


治癒魔導師が震える手で抱き上げたのは、ギルバートと同じ、綺麗なプラチナ金髪の髪の毛を少し生やした、天使のような赤ちゃんだった。


「はぁ、はぁ……生まれた、ね、ギルバート……」


私が疲れ果てて微笑むと、ギルバートは赤ちゃんを受け取るよりも先に、私を壊れ物を抱くように優しく、けれど激しく抱きしめて、声をあげて大号泣した。


「ユキ……ユキ……っ! よく頑張ってくれた……! ありがとう、本当にありがとう……っ。お前が無事で、本当に良かった……っ!」


「もう、パパなんだから泣かないの。ほら、私たちの赤ちゃん、抱っこしてあげて?」


ギルバートがおずおずと、自慢の最強の腕で小さな小さな命を抱き上げる。

その瞬間、赤ちゃんはまるでパパの魔力を理解したかのように、ちっちゃな手でギルバートの人差し指をぎゅっと握りしめた。


ギルバートのアメジストの瞳が、これまでに見たこともないほどの深い、底なしの慈愛の色に染まる。


「あぁ……可愛いな。俺の命に代えても、世界中のどんな理不尽バグからも、この子とお前を絶対に守り抜く。――ようこそ、俺たちの新しい家族(世界)」


その時、ベッドの横に置かれた『天才魔導ベビーベッド』のモニター(スマホ)が、優しく『ピピッ』と音を鳴らした。


【――新規ユーザー(長男・次期王太子)の登録ログインを完了しました。システム、24時間常時安全監視モードを起動します。幸せな未来へ、いってらっしゃいませ――】


前世は孤独なブラック企業のOLだった私が、異世界へ転生し、最強のハッキング技術で自らの運命を書き換えて(ハックして)掴み取った、最高のハッピーエンディング。

過保護すぎる最強の旦那様と、新しく仲間入りした可愛い天使と共に、私たちの「最強のハッキング育児ライフ」は、ここから永遠に続いていくのだった――。



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