第35話:知育カード盗難事件!? スマホ追跡と最強パパの「ざまぁ」裁き
お茶会での宣言から数ヶ月。私のお腹も少しずつふっくらと丸みを帯び始め、愛おしい胎動を感じるようになっていた。
そんな中、ハンスさんたち職人連合と夜な夜な改良を重ねていた『知育マッチングカード』のプロトタイプが、ついに完成を迎えたのだ。
乗り物、動物、フルーツ、そして夜空の星座――。
カードを近づけると、正しい名前が綺麗なひらがなで浮かび上がり、心地よい効果音と共に、描かれた乗り物や動物のホログラムが小さく飛び出すという、前世のAR(拡張現実)技術を魔法で再現した最高傑作だ。
ところが、そのお披露目を明日に控えた夜。王宮の工房から、完成したばかりの試作カード一式が丸ごと盗まれるという緊急事態が発生した。
「申し訳ありません、ユキ様……っ! 頑丈な鍵をかけていたのですが、何者かによって術式ごと物理的に破壊され、カードが盗み出されてしまいました……!」
ハンスさんが顔を真っ青にして床に膝をつく。
「ハンスさん、顔を上げて。大丈夫、犯人は最初から『詰んでる』から」
私はフッと不敵に微笑み、手元の『異世界スマホ』の画面をタップした。
前世で紛失防止タグ(トラッカー)のシステムを構築していた私だ。国家レベルの機密になるかもしれない知育カードに、位置情報発信(GPS)の隠しバグ(プログラム)を仕込んでいないわけがない。
画面のマップ上に、王宮の裏山を猛スピードで移動する「赤い点」がハッキリと浮かび上がっていた。
「全ログ解析完了。犯人の現在地、王宮北方の国境付近の森の中ね」
「――そうか。場所が分かったのなら、一瞬だな」
私の背後から、大気がガタガタと震えるほどの凄まじい「殺気」が立ち上った。
振り返ると、眼帯の外れた両のアメジストの瞳を完全に漆黒に染め上げたギルバートが立っていた。その全身から溢れ出る超高密度の闇魔術は、触れるものすべてを塵に還しそうなほど禍々しい。
「ユキが我が子のために、心を込めて作った大切な知育カードだぞ……? それを盗むなど、万死に値する。その泥棒どもの魂ごと、世界の果てまで消滅させてやろう」
「ギ、ギルバート、顔が完全に魔王になってるよ! 落ち着いて!」
私は慌てて彼の手を握り、膨らんできたお腹に優しく触れさせた。
すると、あれほど狂暴だった魔力が嘘のようにスッと収まり、ギルバートは切なげに眉を下げて私を見つめてきた。
「……ユキ。だが、俺は許せないんだ。お前と我が子の未来を邪魔するバグは、俺の視界から一匹残らず排除せねば気が済まない」
「うん、私も怒ってる。だから、私のスマホの転移術式(ネットワーク共有)で、犯人の目の前に直接『強制ドロップ(強制転移)』しちゃおう!」
◇◇◇
深夜の国境の森。
盗み出した知育カードを抱え、「これで他国に売れば大儲けだ、ひゃっはー!」と下品な笑声をあげていた他国のスパイと悪徳貴族の残党たち。
その目の前の空間が、ピキィィィィィィン!!! と純白の光と共に強制的にハッキングされた。
「な、何だ……っ!? 空間が勝手に書き換えられて――」
光の向こうから現れたのは、大きなお腹を優しく抱えた私と、その隣で冷酷な笑みを浮かべる「最強の過保護王子」ギルバートだった。
「ひっ……!? な、何故ここが分かった……っ!?」
「私のスマホの追跡を舐めないことね。他人の知育カードを盗む悪い泥棒さんには、アクセス権限の完全剥奪がお似合いよ」
私がパチンと指を鳴らした瞬間、男たちが持っていたバッグの中から知育カードがフワリと浮き上がり、自動的に私の手元へと優しく戻ってきた。
「さて……。我が妻の手を煩わせるバグども。二度と光を拝めぬ暗黒の底へ堕ちるがいい。――『絶対重力崩壊』」
ギルバートが冷たく言い放ち、指先をすっと動かした。
次の瞬間、男たちの足元の空間が漆黒のブラックホールのように歪み、悲鳴をあげる暇さえ与えられずに、彼らはそのまま地面の底へと吸い込まれ、完全に消失(強制デリート)していった。
「ふぅ、一件落着! カードも無傷で回収できたし、本当に良かった!」
私がホッとして微笑むと、ギルバートはもの凄い勢いで私を背後から抱きすくめ、私のお腹を壊れ物のように優しく包み込んだ。
「ユキ……っ! 夜中にこんなスリリングなデバッグをさせてしまって申し訳ない! 帰ったらすぐにお前をベッドに運んで、朝まで俺の腕の中で完璧にロック(抱っこ)してやるからな……っ!」
「ひゃあ!? ギルバート、もう事件は解決したから大人しく寝かせて!」
こうして、前世のGPSハック技術と過保護パパの圧倒的な武力によって、知育カードは無事に取り戻された。
明日からはいよいよ、この可愛いカードを使って、お腹の赤ちゃんにたくさんの言葉を聴かせてあげる、幸せな『ハッキング知育ライフ』が始まるのだった。




