第34話:マタニティお茶会と、未来のひらめき
ギルバートが手配した『絶対不可侵の闇結界』に守られた王宮の庭園で、私を元気づけるための特別なお茶会が開かれていた。
集まったのは、私の体調を心配して駆けつけてくれた親しい貴族の奥方たちや、職人のハンスさんたちだ。
「ユキ様、お体の具合はいかがですか? 妊娠初期は、お気持ちが悪くなったりお体がだるくなったりすると聞きますが……」
心配そうに覗き込んでくる奥方たちに、私は特製のハーブティーを飲みながら笑顔で応えた。
「皆さん、ありがとうございます。実は少しつわり(吐き気)があったんですけど、前世の……いえ、私の知識を活かして、柑橘類の香りをベースにした『つわり軽減の魔導アロマ』を調合したんです。これを部屋に満たしておくと、驚くほどスッキリするんですよ」
「お、おそろしいほどの先見の明……! 懐妊の初期症状にまで魔導具でデバッグをかけてしまうとは、さすがは王太子妃殿下ですな!」
ハンスさんが大真面目にノートにメモを取り始める。いや、ただのライフハックなんだけどな、と思いつつも、みんなが感心してのどかにお茶をすする姿を見てホッとする。
だが、そんな平和な空間の特等席(私の真隣)には、当然のように眼帯を外したアメジストの瞳をギラつかせたギルバートが鎮座していた。
「ユキ、そのアロマの術式は本当に安全なんだろうな? わずかでもお前の身体に負担をかける成分が含まれているなら、俺が今すぐその香りをこの世から消滅させるが」
「もう、ギルバートは心配しすぎ! 自分で何回もスマホの成分分析にかけ(スキャンし)て、100%安全だって実証済みだから大丈夫だよ」
苦笑しながら彼の大きな手を優しく握ると、ギルバートは耳をほんのり赤くして、嬉しそうに私の手を包み込み直した。この最強の王子、過保護モードのときは本当に大型犬のようで愛おしい。
「……ところでユキ様、天才ベビーベッドの次はいったい何を作られるのですか?」
ハンスさんのワクワクした質問に、私は待ってましたとばかりに『異世界スマホ』の画面を起動させた。
「ふふん、よくぞ聞いてくれました! ベビーベッドで赤ちゃんの安全を24時間監視(セキュリティ対策)できるようになったら、次に必要なのは『教育と遊びのシステム(知育ハック)』だと思うの!」
「ちいく、ですか?」
「ええ。赤ちゃんが言葉を覚えたり、世界に興味を持ったりするためのアイテムよ。例えば、手先を動かして楽しく遊べる『マッチングカード』をたくさん作りたいの。乗り物、動物、フルーツ、それから夜空の星座……色んなテーマの絵柄を用意して、カードがピタッと合わさると、正しい名前がひらがな(この世界の文字)で浮かび上がったり、可愛い効果音が鳴る仕組みにしたいの!」
前世の日本で培った知育のアイデアが、私の頭の中で次々と魔術回路のコードに変換されていく。
「これなら、お腹の赤ちゃんが大きくなったとき、遊びながら自然と知識をハック(学習)できるでしょ? これを名付けて、『聖女の知育カードプロジェクト』よ!」
私が拳を握って熱弁すると、職人たちだけでなく、お茶会に参加していた奥方たちからも「なんと素晴らしい教育の形……!」「我が子にもぜひ買い与えたい!」と大絶賛の嵐が巻き起こった。
「ユキ……。お前が俺たちの子供のために、そこまで素晴らしい未来を思い描いてくれているとは……」
ギルバートが感動に瞳を潤ませ、お茶会の席であることも忘れて私を背後から力いっぱい抱きすくめてきた。
「よし、ハンス。今すぐカードの素材となる最高級の魔導紙を世界中から買い集めろ。予算は国家予算の枠からいくらでも削り出してやる」
「は、ははっ! 直ちに職人たちを総動員いたします!」
こうして、お腹の赤ちゃんのために始めた前世の知育ハックのアイデアは、過保護すぎる旦那様の親バカ(未来のパパバカ)パワーによって、またしても国家規模の一大事業へと発展していくのだった。




