第33話:最強パパの過保護が限界突破! 王宮のセキュリティは国家機密レベルへ
「――ユキ、動くな。そこから一歩も足を動かしてはならない」
「……ギルバート、私はただ、ソファから立ち上がってあそこにあるお茶のカップを取りたいだけなんだけど……」
「駄目だ。今の君の身体には、俺たちの愛の結晶である大切な命が宿っているんだ。万が一、絨毯のわずかな段差につまずいて転倒でもしたらどうする。お茶なら俺が最高級の茶葉を今すぐ淹れて、お前の口まで運んでやる」
我が国の王太子妃、そして「妊婦」となった私の新婚生活は、めでたさ半分、戸惑い半分といった状況に突入していた。
なぜなら、私が妊娠したと分かった瞬間から、旦那様であるギルバートの過保護ブレーキが木っ端微塵に大破し、その独占欲と警戒心が限界を突破して暴走し始めたからだ。
眼帯の外れた美しいアメジストの瞳を爛々と輝かせ、彼は私の身の回りのすべての動作を先回りして制限しようとしてくる。
『主よ、諦めるのだな。今の金髪王子は、お前が息をするだけで「肺に負担はかかっていないか!?」と心配しかねない狂気モードに入っているぞ』
ソファの端で、呆れたようにため息をつく子犬サイズのラン。
「ラン、他人事だと思って……。あ、そうだ、スマホで今日の体調ログ(バイタルデータ)をチェックしなきゃ」
私がポケットから『異世界スマホ』を取り出そうとすると、それすらもギルバートの逞しい手にひょいと取り上げられてしまった。
「画面から発せられる魔力波が、お腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼすかもしれない。ユキの体調管理は、すべてこの俺が毎朝行うから問題ない」
「スマホの魔力波なんて、私が安全基準を最高レベルに設定してハッキング対策もバッチリしてあるから大丈夫だよ! もう、ギルバートは心配しすぎ!」
私が頬を膨らませて抗議すると、ギルバートは切なげに眉を寄せ、私のお腹の前に跪いてそっと耳を当ててきた。
「心配しないわけがないだろう……。俺は、お前とこの子を失うことが世界で一番恐ろしいんだ。……おい、我が愛しい我が子よ。聞こえるか? パパだ。ママをあまり困らせず、良い子で育ってくれ。お前が生まれてくるのを、俺は誰よりも楽しみにしているからな……」
まだ膨らんでもいない私のお腹に向かって、大真面目に、そしてこれ以上ないほど優しい声で語りかけるギルバート。そのあまりにも愛おしそうなパパの顔を見せられると、私もそれ以上怒れなくなってしまい、彼の金髪を優しく撫でるしかなかった。
「ふふ、ギルバート。赤ちゃんも、パパが大好きだって言ってるよ」
「っ……! ユキ、そんな可愛いことを言われたら、今すぐお前をベッドに連れていって、生まれるまで外に出したくなくなる……っ!」
「だから、それは監禁だってば!」
◇◇◇
そんなドタバタな新婚(妊婦)生活の裏で、王宮のセキュリティは文字通り国家機密レベルへと跳ね上がっていた。
ギルバートの発案により、私の滞在する宮殿の周囲には、他国の軍隊が総出で攻めてきても1ミリも突破できない『絶対不可侵の闇結界』が24時間体制で張られることに。さらに、私が食べるすべての食事は、毒見役のメイドだけでなく、私が開発したスマホの成分分析アプリ(スキャンシステム)でのダブルチェックが義務付けられた。
まさに、世界で一番安全で、世界で一番過保護なマタニティライフ。
「よし……。それなら私も負けていられないわ。お腹の赤ちゃんが生まれるまでに、前世の育児知識をフル活用して、もっとたくさんの便利グッズ(知育アイテムや離乳食マシーン)の術式を開発しちゃおう!」
お腹の小さな鼓動を感じながら、元OLでシステムエンジニアの私は、未来の我が子のために「最強の育児」を行うべく、再びクリエイティブな野心を燃やすのだった。




