第32話:天才ベビーベッド完成! そして、世界で一番幸せなアラート
地下の呪詛事件から数日。
王宮の広間には、国王陛下をはじめとする大勢の重臣や貴族たちが集まり、異様な熱気に包まれていた。
その中心に鎮座するのは、私とハンスさんたち職人連合が総力を挙げて作り上げた『天才魔導ベビーベッド』の完成品だ。
白の聖木で作られた美しい外観に、頭上では可愛い動物たちの魔導メリーが優しい音楽と共にくるくると回っている。サイドパネルには、私がこだわった「知育マッチングカード機能」の綺麗なプレートが埋め込まれていた。
「おお……! これが、我が国の未来を担う子どもたちの安全を守るという、究極の魔導具か!」
国王陛下が身を乗り出して感嘆の声をあげる。
「はい、陛下。試しに、このぬいぐるみを赤ちゃんに見立てて寝かせてみますね」
私がベッドにぬいぐるみを置くと、内蔵されたバイタルセンサーが瞬時に起動し、私の持つ『異世界スマホ』の画面に【体温:正常 / 呼吸:安定】と綺麗な文字でステータスが表示された。
「このように、24時間いつでも赤ちゃんの状態を遠隔で監視できます。万が一、うつ伏せになったり魔力が暴走しかけたりすれば、チャイルドロックとアラートが作動して、一瞬で親に通知が飛ぶシステムです!」
私の説明に、周囲の貴族たちは「なんと革新的な……!」「これがあれば乳幼児の事故はゼロになるぞ!」と口々に絶句し、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
実力主義の隣国をハックした次は、自国の育児環境を完全にテクノロジー(魔法)でアップデートしてしまった。職人たちとハイタッチを交わし、私は最高の達成感に満たされて――。
「――うっ……」
その瞬間、急に世界がぐらりと歪み、強烈な目眩と吐き気が私を襲った。
自分の足の感覚がふっと消え、そのまま後ろへ倒れ込みそうになる。
「ユキ――ッ!!」
周囲の悲鳴を置き去りにして、凄まじい風圧と共に私を抱きとめたのは、当然ギルバートだった。
眼帯のない彼のアメジストの瞳が、見たこともないほど恐怖に見開かれ、その身体がガタガタと震えている。
「ユキ! しっかりしろ! 誰だ、ユキに呪いをかけたのは……っ! 今すぐこの場にいる全員を拷問にかけて――」
「ち、違うの、ギルバート……呪いじゃ、なくて……」
私が彼の胸にすがりつきながらハァハァと息を整えていると、私のポケットの中で、異世界スマホが『ピピッ、ピピッ』と、これまでに聞いたことのない、とても優しくて神々しいアラート音を鳴らし始めた。
画面を見ると、そこには自動同期されたベッドのセンサーから、驚くべき『ログ』が出力されていたのだ。
【――緊急通知:マスターの体内に、未知の小さな聖魔力反応を検知。心拍数:2。おめでとうございます、新しい家族(生命)が誕生しています――】
「え……?」
画面を見た私とギルバート、そして足元で見ていたランが同時に目を見開いた。
『主よ……お前、体内にもうひとつの命を宿しているぞ。これは、間違いなく――』
「ユキ……。これ、は……」
ギルバートが、震える手でスマホを見つめ、それから私のまだ平らなお腹に、壊れ物を触るようにそっと掌をあてた。そこから、確かに私とギルバートの魔力が混ざり合った、愛おしい小さな鼓動がドクドクと伝わってくる。
「ギルバート……私、お母さんになるみたい」
私が涙目を浮かべて微笑むと、ギルバートの瞳から、大粒の涙がハラハラと零れ落ちた。
彼は狂おしいほどの愛おしさを込めて、王宮の全員の前であることも忘れ、私をきつく、優しく、抱きしめ抜いた。
「ユキ、ユキ……っ! ありがとう、俺を父親にしてくれて……! 愛している、世界中の何よりもお前と、俺たちの子供を愛している……っ!」
「ひゃあ、ギルバート、みんな見てるから……っ、でも、私も愛してるよ」
完璧に作り上げた天才ベビーベッドは、まさかの「自分たちの赤ちゃん」のために、世界で一番最初の、そして最高にハッピーなアラートを鳴らしたのだった。
こうして、元OLの無自覚チートな新婚生活は、最高の奇跡と共に、いよいよ「最強のハッキング育児編」という新たなステージへと進むことになる――。




