第22話 夜が明けるまで
剛田が部隊を率いて倉庫に到着した時、制圧はすでに終わっていた。
倉庫の中を見渡す。男たちが床に転がっている。龍二が壁に寄りかかって、欠伸をかみ殺していた。
「……まったく」
剛田は低く呟いた。
「お疲れさんです」
龍二が軽く手を上げた。
「俺たちが着く前に片付けてやがる。ボスには困ったもんだ」
「間に合わんかったら話になりませんから」
「わかってるよ。それでも、後でたっぷり絞ってやらないとな」
剛田はそれだけ言って、倉庫の中を歩き始めた。部隊に手際よく指示を出しながら、龍二の隣に並んだ。
「……まあ、無事だったならいい。それだけだ」
ぽつりと言った。
「ですね」
龍二も静かにうなずいた。
しばらくして、剛田が口を開いた。
「この連中、どうする。警察に引き渡すか」
「それがですね」
龍二が細い目をさらに細めた。
「この規模の仕事をやらかした連中が、警察に手を打っていないとは思えへんのですよ」
「だろうな」
剛田が腕を組んだ。迷いのない判断だった。
「リーダー格はうちで確保する。残りは上条警部に引き渡せ。あの人なら変なことにはならん」
「了解です」
剛田は部隊に向かって、静かに指示を出し始めた。
そこへ、部隊員の一人が近づいてきた。
「剛田さん、報告があります。到着前に北の路地に怪しい車を確認しました。追跡しましたが、巻かれました。ナンバーは控えてあります」
「そうか」
剛田は静かに受け取った。
「龍二」
「はい」
「怪しい車がいたそうだ。今夜はこれで終わりじゃないかもしれんな」
「……ですね。ボスに伝えておきます」
「ああ、頼む」
夜の倉庫に、静かな風が吹いた。
倉庫の外、ありさはその場に立ち尽くしていた。
さっきまで必死に耐えていたのに、全部終わったと思った瞬間に力が抜けた。
気づいたら膝が震えていた。立っていられなくて、その場にしゃがみ込もうとした。
「如月さん!」
舞が素早く横に来て、ありさの腕を支えた。
「大丈夫ですか?」
「……ごめんなさい、足が」
「無理もありません。今日は本当に怖い思いをしましたから」
千夏がありさの反対側に回って、静かに支えた。
舞が侍女たちに向き直った。
「二人とも、今夜のことは内密にしておくんどす。車の手配をしてもらえますか」
「かしこまりました、お嬢様」
侍女たちが素早く動き始めた。
しばらくして、シエラが静かにありさの前に立った。
「如月さん」
「……はい」
「今日は本当にお疲れ様でした」
「シエラちゃん……色々聞きたいことがあって」
「わかっています。でも今夜は聞かないでください」
シエラが静かに続けた。
「今日のことは内密にお願いしたいんです。特に……不破さんのことは、誰にも話さないでほしいんです。学校での姿と、今夜の姿。両方見てしまったと思いますが」
ありさは少しの間、シエラを見た。
「……わかった。話さない」
「ありがとうございます」
シエラが舞の方を向いた。
「九条さんにも、お願いできますか」
舞は少し考えてから、静かにうなずいた。
「わかりました。誰にも言いません」
「助かります。詳しいことは、また落ち着いた時に説明しますから」
シエラがありさを見た。
「如月さん、剛田さんの車でお送りします。九条さんたちはどうされますか」
舞が千夏と目を合わせた。
まだ状況が整理できていない。あの人が何者なのか。自分たちがこれからどうすればいいのか。頭の中がまだざわついている。
「……大丈夫どす。自分たちで帰ります」
「そうですか。では気をつけて帰ってください」
シエラはそれだけ言って、ありさを支えながら剛田の車の方へ歩いていった。
舞はその背中を見送りながら、千夏の隣に立っていた。
「千夏」
「はい、お嬢様」
「……あの方は、一体何者なんどすやろ」
千夏はしばらく黙っていた。
「私にも、わかりません」
でも、頬がまだほんのり赤かった。
その頃、倉庫から少し離れた場所に止まっていた黒い車の中では。
「作戦は失敗です」
男が静かに報告した。
暗くて、顔は見えない。後部座席に座る人物が、低く言った。
「……思っていたより、あの会社の裏には大きなグループがあるようだな」
少しの沈黙。
「それがわかっただけで、今夜は収穫だ。今は引け」
「……了解しました」
車が静かに動き出した。
夜の道に、黒い影が溶けていく。
煙が、ゆっくりと夜空に溶けていった。
第22話 了




