信用度0%
《サイド:文塚乃絵瑠》
…さて、と。
暗黒迷宮の控室であずさと未来の治療を終えた私達は適当に時間を潰しながらのんびりと体を休めることにしたわ。
彩花は静かに読書をしているし。
奈々香は黙々とお昼ご飯の準備をしているわね。
特にやることがない私は、
一人で部屋の掃除やみんなの洗濯とかの食事以外の家事全般をしているわ。
…まあ、別に不満なんてないんだけどね。
食事の準備だけは彩花にやんわりと拒絶されてしまったのよ。
そのせいでただひたすら掃除を続けながらため息を吐いているの。
「相変わらず私の料理は『猛毒』扱いなのね…。」
料理に関しては特別な練習や特訓をしてきたわけじゃないから、
『以前と比べて上達してる』っていう可能性は全くないわ。
だから料理に関しては『信用度0%』のままなのよ。
個人的には実害がないんだけど。
他人に与える被害は計り知れないのよね〜。
…今度、美咲さんに料理を教えてもらおうかな?
味も香りも見た目も全てが完璧だったのよ。
…うぅ~ん。
もう一度食べてみたいな~。
なんて、美咲さんの料理を懐かしく思っているとね。
…ん?
奈々香が作る料理の香りが漂ってきたのよ。
「おぉ~。良い匂いね~!」
匂いを感じた瞬間に少しだけお腹がなってしまう。
「もうすぐお昼か~。」
掃除を続けながら時計に視線を向けてみると、
時計の針は11時42分を示してる。
「掃除をしてると時間が経つのが早いわね。」
あずさと未来の治療をしてからすでに数時間が経過しているのよ。
「そろそろ起きるのかな?」
魔力が底をついて昏倒しているわけじゃなくて、
ごく単純に怪我と疲労で気を失っているだけだから。
普通に考えればそろそろ目覚めても良い頃合いだと思うのよ。
「様子でも見に行こうかな?」
掃除を中断して二人が眠るベッドに歩み寄ろうとしたんだけど。
「…ああ、そうそう。」
魔導書を読み終えた様子の彩花が話し掛けてきたの。
「ねえ、乃絵瑠。」
「ん?どうかしたの?」
ゆっくりと歩み寄る彩花に振り返る。
そしてお互いに見つめ合ったことで彩花が私に問い掛けてきたのよ。
「乃絵瑠はどう思うかしら?」
…何を?
「私達は暗黒迷宮を全て攻略したわ。」
…ええ、そうね。
「これ以上ここにいても成長は望めないから、もうここに留まる必要はないと思うんだけど…乃絵瑠はどう思う?」
…ああ、なるほど。
そういう話なのね。
「う~ん…。確かにここにいる必要はもうない…かな?」
現状、彩花と奈々香と私はもうここで出来ることが何もないのよ。
まあ、あずさと未来はまだ努力する意味はあるんだけどね。
だけど私達にはないの。
「…でも、あずさと未来が暗黒迷宮に挑み続けるのなら、私達もここにいるべきじゃない?」
二人を置いていくわけにはいかないと思うんだけど。
彩花としてはさっさとここを離れたいみたい。
「おそらく二人はここまでが限界だと思うわ。この先の迷宮を攻略出来る可能性はほとんどないでしょうね。」
…そうなのかな?
「もちろん時間さえかければいつかは攻略できるかも知れないわ。だけど残念なことに私達には二人の成長を待つだけの時間がないの。」
…ああ、うん。
まあ、そうよね。
戦争が続く状況で無駄な時間なんて存在しないわ。
一刻も早く戦場に立って戦うべきだから。
「二人が目覚めるまで待つくらいなら良いけれど、最後の迷宮を攻略するまで待ち続ける暇はないわ。」
…うん。
「最終的には二人の意志にもよるけれど、場合によってはあずさと未来の二人とはここで別れることも考えるべきでしょうね。」
…うぅ~ん。
「あずさと未来を置いていくの?」
「二人が私達と一緒に来ると言うのなら良いけれど。行かないと判断した時に私達が待ち続ける必要はないという話よ。」
…あ~、うん。
そこはまあ、仕方がないのかな?
時の流れは待ってくれないから。
今も続いている戦争をこのまま何もせずに放置するわけにはいかないから。
「私達は戦う為の力を求めてここに来たのよ。だから力を手に入れた今は再び戦場に戻るべきよ。」
私達の力を示すために。
そしてカリーナを守るために。
最終的にはウィッチクイーンに勝つために。
旅立ちを考えているみたい。
「そろそろ出発するべきよ。」
これ以上の時間を浪費する暇はないってこと。
そうこう話し合っている間にね。
時計の針が12時を指していたわ。




