それがあの子のため
《サイド:文塚乃絵瑠》
…はふぅ。
まだちょっと眠いかも?
時刻は午前6時30分を迎える頃。
私達は奈々香が用意してくれた朝食を食べながら、
あずさと未来の帰りを待っているところよ。
「そろそろ制限時間じゃない?」
「ええ、そうね。失敗か攻略か。どちらにしても結果はあと数分で明らかになるはずよ。」
もしも失敗なら二人の成長はひとまずそこまでだけど。
突破できれば二人にはまだ成長の余地があるはず。
「どうなのかな?」
「さあ?」
彩花はあまり興味がないのか、
落ち着いた雰囲気で静かに食事を続けてる。
そして奈々香は私達の会話に参加せずに黙々と朝食と向き合っているわ。
「………。」
周りを一切気にせずに食事を続けているのよ。
…もう少し気にしてあげても良いんじゃない?
二人の反応に疑問を感じてしまう。
…う~ん。
微妙な沈黙の中で、
もう一度時計に視線を向けてみる。
「…6時30分、ね。」
「未来が出てきたわよ。」
何気なく呟いてみた直後に、
魔力の波動を感じた彩花が未来の帰りに気付いたみたい。
「迷宮に向かうのがあずさよりも少し早かったから、未来の帰りが先だったようね。」
…ああ、なるほど。
彩花の言葉を聞きながら、
未来の心に意識を向けてみたわ。
…ふんふん。
どうやら無事に攻略できたみたいね。
迷宮を放り出されたわけじゃなくて、
しっかりと自分の意志で活動しているのよ。
疲労困憊の心境で通路を進む未来の心が痛々しいくらいに伝わってくるわ。
…これが普通なのよね〜。
最短攻略を達成した私とは違って、
未来のように限界ギリギリの攻略が本来は普通のはずなのよ。
…そういう意味では私も異端かも?
ちょっぴり落ち込みながらため息を吐いてみたところで再び彩花が呟いたわ。
「あずさも出て来たようね。」
…あ~、うん。
そうみたいね。
即座にあずさの心を捜してみたことで、
すぐに見つけることができたわ。
…あずさも突破、かな?
意識が飛びそうな状況のあずさの精神状態はズタズタで、
まともな思考能力を残していなかったわ。
…結構、危険な状態かも?
そう思って駆けつけようと考えたんだけど。
「大丈夫よ。あの子には最後まで戦わせてあげなさい。」
あずさの魔力の波動の状況から危機を感じ取っている彩花は手を差し延べることを否定してた。
「最後まで見届けなさい。それが本当の優しさよ。」
…うん。
まあ、ね。
手を差し延べることがいつも正しいとは限らないから。
時には厳しく、冷たく接することも必要なのよ。
「あずさを信じなさい。」
堪えて待つことも重要な選択肢ってことよね?
「あの子の成長を信じて待ちなさい。それがあの子のためよ。」
…ふぅ。
分かったわ。
彩花が手を出すなと言うのなら私は何もしない。
ただあずさの成長を信じて。
あずさの無事を願いながらこの場に留まり続けるだけよ。
「ここで待ちなさい。」
「うん。」
食事を再開する彩花の想いを察して素直に留まることを選ぶ。
…彩花らしい考え方よね。
だからこそ彩花は優しいと思えるのよ。
…手を差し延べるにはまだ早いわよね。
あずさ自身が救いを望まない限り。
あずさ自身が自らの意志で進み続ける限り。
不用意に救いの手を差し延べるべきではないから。
だから私は何もせずに未来とあずさの帰りを待つことにしたの。




