地上の天使
カーウェン連合国への進軍を決断した僕達は、
ひとまず杞憂さんや倉嶋善治さんが中心となって軍議を行うことになった。
そうしてカーウェン連合国への対策会議が進む中で一人の少女が僕の傍に歩み寄ってきたんだ。
「あ、あの…澤木様、お体の調子はいかがですか?」
…え?
「あ、ああ…。はい。」
なんとなく聞き覚えのある優しい声で、
甘い香りが漂っている。
…この匂いは確か昨日の?
柔らかな笑顔で話し掛けてきた少女と向き合って気付いた。
「その声は昨日の…?」
「あ、はい。そうです。」
…やっぱりそうか。
拷問部屋で僕の手当をしてくれていた少女だと気付けたんだ。
…って?
うわっ!?
…ものすごく可愛い子だ。
雰囲気こそ真逆な感じがするけれど。
シェリルと比べても見劣りしない顔立ちと体つきで、
倉嶋絵里香さんに匹敵するほどの上品な立ち振る舞いだった。
そのせいで一目で少女に心を奪われてしまっていた。
…これまでに出会ったどんな女性よりも可愛いかも。
僕の価値観ではシェリルと同等。
もしくはそれ以上かな?
それくらい少女の笑顔は僕の心を捉えて離さなかった。
…世界は広いな。
完璧な美を持つ少女の存在は、
僕にとって高嶺の花であり過ぎて、
まっすぐに向き合うことさえためらうほどだった。
…か、可愛すぎて顔が見れない。
見つめ合うだけで顔が赤くなる気がする。
…ホントに、情けないな。
女性と向き合うだけのことさえ上手く出来ない自分を恥ずかしく思ってしまったことで、
心配をかけてしまったのか不安そうな表情で僕に声をかけてくれていた。
「あ、あの…。まだどこかお悪いのでしたら、手当に協力させていただきますので遠慮なく言ってください。」
「え、あ、い、いえ…っ!?」
そっと触れられた少女の柔らかな手の温かな温もりが僕の心臓の鼓動を加速させていく。
…うぁ、っ。
嬉しくもあって恥ずかしくもあって情けなくもある心境で、
慌てて少女に言葉を返すことしかできなかった。
「あ…あの、いえ…っ。だ、だ、だ、大丈夫です。特に問題はありませんからっ。」
「ははっ!」
アタフタとあわてふためく僕を見ていた康平が密かに笑っている。
そしてそんな僕達の様子を眺めていたシェリルが冷たい視線を向けてきた。
「何をそんなに慌ててるのよ?」
…うっ。
ただ手が触れた程度で…と言いたそうな表情のシェリルの何気ない言葉が、
僕の心にはざっくりと突き刺さる。
…情けないにもほどがあるよね。
シェリルの目の前で醜態をさらしている事実にひたすら落ち込んでしまう。
けれど少女はどこまでも優しく接してくれていたんだ。
「…良かったです。」
心から安堵しているかのうような微笑みだった。
そんな少女の笑顔が僕にはまぶしく見える。
…まるで地上の天使だな。
以前の魔術大会で天城総魔の精霊を見た時にも感じた感覚と同じだった。
畏怖や敬愛にも等しい崇拝とも言える感覚が僕の心に生まれていたんだ。
…可愛いな。
なんて考えていると。
優しい微笑みを見せてくれた少女は僕から手を離してしまった。
「その…。私もカーウェンに同行致しますので、しばらくの間ですけれど…よろしくお願い致します。」
丁寧にお辞儀をしたあとで、
少女は杞憂さんの傍に行ってしまったんだ。




