信念に感服して
《サイド:澤木京一》
時計の針が午前6時を過ぎた頃。
杞憂幻夜さんに呼ばれた僕は、
王城の2階にある謁見の間に訪れた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
精一杯の笑顔で杞憂さんと向き合ってみると、
杞憂さんも笑顔を返してくれていた。
「気分はどうだ?まだ病み上がりで大変かもしれないが、少しは休めたか?」
「あ、はい。ゆっくりと休ませていただきました。」
王城の一室を借りた僕達は、
久々に康平達と一緒に一晩過ごすことができたんだ。
僅か数日の出来事だったとはいえ、
こうしてまたみんなと一緒に行動できるようになったことが何よりも嬉しく思える。
「シェリル達はまだいないんですね。」
僕の後ろには康平と菊地君がいるんだけど。
ざっと見た感じシェリル達はいないように思う。
「まだ部屋で寝てるのかな?」
…なんて、思ったんだけど。
「失礼ね。私達も起きてるわよ。」
背後から冷たい声が届いてきた。
…あれ?
後ろにいたのか。
さすがに後ろは確認してなかったよ。
「ごめんごめん。」
「…まあ、良いけどね。」
冷静な表情で謁見の間の中へ歩みを進めるシェリルの後ろには、
筑紫さんと那岐さんと倉嶋絵里香さんの姿もあった。
…みんなも元気そうだね。
一応、部屋は男女別だったから今日はここで会うのが初めてになる。
「みんな、おはよう。」
優しい笑顔で挨拶をしてくれる筑紫さんのすぐ傍では、
倉嶋絵里香さんも丁寧に頭を下げてくれていた。
「皆様、おはようございます。」
清楚で上品な落ち着いた仕種。
そして高貴な雰囲気さえも醸し出す倉嶋絵里香さんは、
誰がどう見ても完璧なお嬢様としか表現のしようがない。
たぶん、一国のお姫様と比べても何一つ遜色のない存在だろうね。
…と言っても。
イーファにはお姫様がいなかったから実物を見たことはないけれど。
それでもちゃんとドレスを着て着飾っていれば十分にお姫様として通用するんじゃないかな?
「皆様、お揃いのようですわね。」
笑顔を浮かべながら周囲を見渡す倉嶋絵里香さんは、
すでに集まっていた桐島さんと倉嶋善治さんを見ている。
「お父様、亮平様、おはようございます。」
二人はここで杞憂さんと一緒に今後の予定を話し合っていたらしい。
まあ、僕達も会議に加わるために呼ばれたわけだけどね。
「よし、みんな揃ったな。」
「疲れているところを朝早くから集まってもらってすまないな。」
笑顔を浮かべる桐島さんの隣では、
倉嶋善治さんが少しだけ申し訳なさそうな表情を見せながら頭を下げてくれていた。
「出来ればゆっくりと休んでもらいたいところなのだが、そうはいかない事情が発生したものでな。申し訳ないが、きみ達にも軍議に参加してもらいたい。」
「あ、はい。それは良いんですが、何かあったんですか?」
イーファの制圧は終わったはずだし。
アルバニアの陰陽師軍が駐屯していることで、
抵抗を考える人なんていないと思う。
なのに問題が起きるなんてなんだろう?なんて考えていたら、
どうやらそういう問題じゃなかったらせ。
「実はイーファの南にあるカーウェン連合国から宣戦布告の書状が届いたのだ。」
…うわっ!?
宣戦布告ということは、
当然戦争になるということだよね?
「「「「「………。」」」」」
倉嶋善治さんの話を聞いた僕達は揃って言葉を詰まらせてしまった。
もちろんこの展開は昨日の時点で予想していたんだけど。
だけどいざ実際にそうなると、
どうしても不安が心に募ってしまうんだ。
「今度はカーウェン連合国と戦争ですか?」
「ああ、残念だがそうなってしまうようだ。向こうが徹底抗戦を申し出てきた以上、イーファと同様にカーウェンとも決着をつけるしかないだろう。」
…はあ。
やっぱりそうなるのか。
軍事力の低いイーファとは違って、
大陸最強の海軍を抱えていると噂のカーウェン連合国の戦力は、
海上戦だとアルバニアの陰陽師軍と互角に渡り合える実力があるらしい。
「カーウェン連合国はすでに軍備を整えているようだ。そのため我々も迅速に戦力を整える必要がある。」
どうやら倉嶋善治さんはアルバニアの陰陽師軍と協力して、
カーウェン連合国と戦うつもりでいるようだね。
イーファ魔術師ギルドの戦力はおよそ300名だけど。
カーウェン魔術師ギルドの魔術師と合流できれば、
ざっと700名程度になると言っていた。
「カーウェンに潜む仲間達と合流出来ればこちらも少しは戦力を強化することが出来るだろう。そのうえで杞憂殿の配慮によって我々の支配下に入ったイーファの陰陽師軍も、こちら側の味方として動いてくれることになっている。」
…え?
イーファの軍も?
…いつの間に?
「仮にも国を奪われたのに、敵対せずに協力を受け入れてもらえたんですか?」
「まあ、そこは俺の威光というものだ。」
…あ、ああ、なるほど。
杞憂さんが説得してくれたらしい。
イーファの陰陽師軍を率いる里仲利光さんは、
陰陽師の頂点に立つ杞憂さんの説得に応じてアルバニア軍の傘下に入ったようだね。
その結果として共和国とアルバニアとイーファの連合軍が成立しているらしい。
「双方の総戦力だけで考えればカーウェン連合国は恐れるほどではないかもしれん。だが、これが戦争である以上、犠牲者が出るのは避けられないだろうな。」
…ですよね。
こちらにしてもカーウェンにしても、
互いに戦力を削り合う戦闘になるはず。
「ひとまずカーウェン連合国が敵対の意志を見せている以上はこちらとしても戦うしか道がない。」
「そうなると今度は海戦ですか?」
「そうなるな。」
「勝てるでしょうか?」
「もちろん勝つつもりで挑む。」
…それはまあ、そうなんだけどね。
「心配せずとも大丈夫だ。きみ達もそうだが、我々陰陽師も遠距離攻撃を得意としているからな。戦場が陸地であろうと海上であろうと問題はない。」
…ああ、そうか。
どうせ乱戦にならないのならどっちでも良いのかな?
「それにカーウェン連合国が動き出したのはこちらにとっても好都合だ。向こうが宣戦布告を行ったことでカーウェン連合国と戦う大義名分が出来たのだからな。これで堂々とカーウェンを支配する理由が出来たことになる。」
…うぅーん。
大義名分か。
その考えは少し強引な気がするけれど。
向こうが戦争を始めた以上は仕方がないことなのかな?
…まあ、何にしても最終的な目標である3カ国同盟を成立させるためにはカーウェン連合国を潰す必要があるみたいだけどね。
理由はともかくとして、
戦うことに変わりはないらしい。
「すでに昨日も話しているが、俺達アルバニア軍はイーファとカーウェンを制圧するために動いている。だからこそ今回の宣戦布告はこちらにとっても好都合なのだ。」
国家再編成計画を成功させるためにはカーウェン連合国は制圧しなければいけないから。
倉嶋善治さん達にとっては頭の痛い問題でも、
杞憂さんにとっては望んでいた状況だったようだ。
「きみ達にとっては辛いことかもしれないが、ぜひとも力を貸してもらいたい。」
「それは構いませんが、僕達でお役に立てるでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。」
杞憂さんは即答で応えてくれていた。
「自覚はないかもしれないが、澤木君の活躍は目覚ましいものがある。里仲利光が従属を受け入れてくれたのも実を言えばきみのおかげなのだ。」
…え?
「僕が…ですか?」
「ああ、そうだ。その説明の前に一つ聞くが、岡田義範は覚えているか?」
「あ、はい。その人なら…。」
僕を拷問していた人だからね。
たぶん、一生忘れないと思う。
「彼はきみの信念に感服して我々の軍門に下ってくれたのだ。そしてイーファの衛兵達をまとめたうえで王都の沈静化にも協力してくれている。」
「あの岡田さんが…?」
「ふふっ。信じられないか?」
「えっと…まあ、はい…。」
僕が知る限りで言えば、
僕を呪い殺しそうなほど憎んでいたはずだからね。
僕に感服してくれたということが、
どうにも理解できなかった。
「岡田さんが協力してくれているんですか?」
「今は城下に出ていてここにはいないが、里仲利光を説得してくれたのも彼になる。」
…岡田さんが、里仲さんを?
「きみの勇気をたたえ、きみになら従う価値があると力説してくれたのだ。その結果として、里仲利光も我々への従属を決断してくれた。」
…へぇー。
岡田さんにどういう心境の変化があったのか僕には分からないけれど。
最後まで拷問を耐えきったことで少しは見直してもらえたのかもしれないね。
まあ、考えようによっては拷問の張本人として最も処刑台に近い場所にいたともいえる人だから。
もしかしたら僕に協力することで処刑を免れようとしたのかもしれないけれど。
直接会って話をしてみないことには何とも言えないかな?
…打算なのか本心なのかはともかくとして。
岡田さんの協力によってイーファの軍は僕達の味方になってくれたらしい。
「ひとまずカーウェン連合国を制圧することが共和国の平和にも繋がるのだ。向こうに戦う意思がある以上、こちらも対策を考えるべきだろう。」
一通りの説明をしてくれた杞憂さんは僕達に今後の計画を聞かせてくれたんだ。




