そういう趣味
《サイド:文塚乃絵瑠》
…うわぁ~。
確かにまだ負けそうかも。
どれほど成長しても彩花には届かないような気がしてしまうのよ。
…まあ、美咲さんに比べれば絶望的と言うほどではないけどね。
きっと私と彩花が手を組んでも美咲さんにはかすりもしないと思うから。
それぐらい次元が違う存在なのよ。
…そう思えば彩花はまだ手が届く範囲よね?
今はまだ勝てそうにないけれど。
頑張れば何とかなるような気はするの。
…だけど。
奈々香は素直に私を褒めてくれていたわ。
「…私よりも強いと思います。」
「そうかな〜?」
素直に褒めてくれる奈々香だけど。
奈々香自身も魔力が数倍に膨れ上がっているような気がするのよね〜。
それこそ『魔力の総量』という意味では彩花や私を大きく上回ってると言い切れるくらいにね。
私が知らない間に奈々香もしっかりと成長していたのよ。
「奈々香もすごく強くなってると思うわよ。」
「…い、いえ。」
笑顔で語りかけてみたことで、
奈々香は恥ずかしそうに顔を赤く染めてる。
「………。」
照れて俯く奈々香の行動や表情の変化がとても珍しくて、
とても新鮮なものに思えてしまったわ。
「奈々香って結構可愛いところがあるわよね〜。」
たまに見せる表情の変化がすごく可愛く思えるのよ。
「清純派って感じ?」
何気なく奈々香の頭を撫でてみると。
奈々香の顔が真っ赤に染まって耳まで桜色に染まっていく。
「可愛い~!」
本気で可愛いと思って眺めていると、
彩花が色々な意味で温かな視線を向けてきたのよ。
「あらあら…。乃絵瑠もとうとう『そういう趣味』に目覚めたのね。」
…えっ!?
何でそうなるの?
「私は別にそんなつもりは…?」
無いって答えようとしたんだけどね。
「乃絵瑠にその気はなくても、奈々香はどうかしら?」
その前に彩花に遮られてしまったのよ。
…へ?
奈々香?
彩花の指摘を受けて、
改めて奈々香と向き合ってみる。
そうして見つめ合う奈々香の瞳は、
まっすぐに私だけを見つめてる。
…は?
う、嘘でしょっ!?
…まさか、姉妹揃って!?
美咲さんと同様に、
そういう趣味の持ち主かどうかを考えていると。
「乃絵瑠さんが…好きです。」
奈々香は小さな声で宣言してしまったのよ。
…うぁぁ!?
やっぱり、そうなるの?
奈々香の告白を聞いた瞬間に慌てて奈々香の頭から手を離してしまったわ。
そのせいで奈々香は今にも泣き出しそうな表情に変わってしまったのよ。
「………。」
………。
「………。」
………。
奈々香からの無言の圧力。
このまま放置すれば確実に泣き出す雰囲気に見える。
…えぇ~っと。
こ、これって私が悪いの?
そんなはずはないと思うんだけど。
だからと言って奈々香を泣かせて喜ぶ趣味はないわ。
…くっ。
こうなったらもう。
奈々香の体を思いっきり抱きしめることにしたの。
「ご、ごめんね。別に奈々香が嫌いとかそういうことじゃないのよ?何て言うか…」
慌てて弁解しようと思ったんだけど。
奈々香を抱きしめた瞬間に、
まっすぐな想いが流れ込んでくる。
『乃絵瑠さん…。優しくて…温かくて…大好きです。』
…うわあああああああぁ~!!!!
これはもう確定よね!?
奈々香の心を知って言葉をなくしてしまったわ。
…って、あれ?
でも、これって?
奈々香のまっすぐな想いはどこまでも純心で。
どこまでも綺麗で。
とても温かくて。
とても心地好かったのよ。
…もしかして?
そういう趣味じゃなくて、
友達とかそういう意味なのかな?
ドロドロした関係ではなくて、
尊敬や敬愛っていう感じがするのよ。
…これなら、大丈夫よね?
奈々香は極々普通の女の子だと信じることにして、
改めて奈々香の体を抱きしめることにしたわ。
「私も奈々香のことが好きよ。」
もちろん友達として、なんだけど。
「………。」
何故か奈々香の表情は見てるこっちが恥ずかしくなるくらい真っ赤に染まっていく。
…あれ?
もしかしてやらかしちゃった?
「奈々香?」
「………。」
恥ずかしさと嬉しさで言葉をなくした奈々香は何も答えない。
だけどまっすぐな想いは届いてくるのよ。
『…乃絵瑠さん。』
ただ一心に私を想う奈々香の心は安らぎに満ちていたわ。
…これなら大丈夫そうよね?
美咲さんと違って暴走はしないと判断したところで、
彩花が楽しそうに話し掛けてきたの。
「やっぱり、そういう…?」
「いや、だから違うってば〜〜〜!」
彩花の言葉を遮って必死に叫ぶ。
その間にも抱きしめられて幸せを感じる奈々香は何も言わずに私の腕の中にいたわ。
…う~ん。
なかなか複雑な状況よね?
奈々香の気持ちはどこまでなのかな?
今はまだよく分からないけれど。
彩花は私達を微笑ましく見つめてる。
…って言うか。
これって、いつまで続ければいいの?
どうやって奈々香から離れようかを考えていると、
いつの間にか時計の針はとっくに翌日を示していたのよ。




