その言葉はダメよ
《サイド:シェリル・カウアー》
「京一~〜~っ!!」
京一の名前を呼びながら全力で室内に飛び込む。
すぐ後ろからは盛長康平や筑紫さん達も続いてくれていたんだけど。
部屋に入った瞬間に私達は真実を目にしてしまったのよ。
「そ、そんな…っ!?」
…どうしてなのよ!!
信じたくない現実。
認めたくない真実。
だけどそれでも突きつけられた事実を否定することは誰にも出来なかったわ。
「京一~~~!!!!!」
叫んでみても京一は反応すらしてくれなかったのよ。
まるで何も聞こえていないかのように。
まるで深い眠りについているかのように。
何の反応も示してくれなかったの。
…う、嘘でしょ!?
ねえっ!!
…嘘って言ってよっ!!
「京一っ!!!」
必死に呼びかけてみるけれど。
京一は微動だにしない。
…嘘でしょ?
ここまできて間にあわなかったの?
この状況で考えられる可能性は一つしかないわよね?
認めたくはないけれど。
絶対に認めたくないけれど。
京一はすでに死んでいるとしか思えなかったのよ。
「京一~~~~っ!!!!」
拘束から解放された状態で椅子に倒れ込んでいる京一の顔は安らかで幸せに満ちているように見える。
だけどそれは京一にとっての結末であって、
私達にとっては絶望と悲劇でしかないわ。
「どうしてっ!?」
…どうして京一が死んでいるの!?
どうして救助が間に合わなかったの!?
…どうして京一を一人きりにしたのよ!?
どうして京一を守れなかったのよ!?
様々の想いが室内に広がって、
重苦しい空気が室内に広がっていく。
「どうしてっ!どうしてなの!?」
どうして京一が死んだの?
繰り返される想いが憎しみを生み出して心に怒りが込み上げてくる。
「どうしてよっ!!!!」
味方のはずだった人物がここにいて、
京一の死に関わっている。
その事実が私には理解出来なかったわ。
「どうして京一が!?」
「…間に合わなかったのだ。」
…間に合わなかった?
すでに死んでしまっていた京一を見て疑問を感じる私に、
杞憂幻夜が冷静に語りかけてくる。
「ただ、それだけのことだ。」
…は?
何よそれ?
「ただ…それ…だけ?」
…何を言ってるの?
ふざけるんじゃないわよっ!!
わけのわからない発言を聞いて激しい怒りを感じてしまう。
そのせいで冷静さを見失ってしまった私は目の前の人物が誰かなんて関係なく、
杞憂幻夜を憎悪を込めた瞳で睨みつけてしまっていたわ。
「許さないっ!私は貴方も許さないっ!!」
京一の死を受け入れられなかったことで、
怒りの矛先を杞憂幻夜に向けていたのよ。
「絶対に許さないっ!!」
憎しみに染まる心。
今にも暴発してしまいそうな状況になってしまった瞬間に。
「ご…ごめんなさいっ!私が悪いんです!」
一人の女の子が謝罪してきたのよ。
「私が何も出来なかったから…。私の力が足りなかったから…。だから救えなかったんです!」
「は…?貴女が?」
「ごめんなさい!」
………。
どうやら必死に京一の治療をしてくれてはいたようね。
だけど結果的に京一を救うことは出来なかったということよ。
「私が悪いんです!だから…だから杞憂様を責めないでください!」
…そう。
貴女が悪いのね。
全ての責任を一人で背負おうとするのなら、
けじめのつけ方は一つしかないわ。
「だったら貴女が!」
「止めなさい!シェリルっ!!」
『貴女が死ねばいい』と言葉にしようとしたところで、
筑紫さんに止められてしまったのよ。
「その言葉はダメよ。」
………。
「澤木君の前で迂闊な発言をするべきではないわ。」
…くっ。
私の肩を掴んで振り向かせた筑紫さんの表情は悲しみに染まっていて、
とめどない涙があふれてる。
…筑紫さんも堪えているのね。
最期まで仲間を想って戦い抜いた京一の前で、
仲間の死を願うべきではないということよ。
…京一。
筑紫さんに諭されたことで少しだけ落ち着きを取り戻せたみたい。
「ごめんね…。」
素直に謝罪してみたけれど。
だからといって心に残る想いが消えるわけじゃないわ。
京一を死なせた後悔と京一を守れなかった絶望。
目の前の悲劇が存在する限り、
私の怒りが消えることはないからよ。
「…京一。」
溢れる涙を拭う気力もなくして呆然と京一を見つめてしまう。
そんな私と同じように盛長康平や筑紫さんも言葉をなくして落ち込む中で。
「あれ?」
黙って様子を見ていた那岐さんが小さな声で呟いたのよ。
「まだ魔力の波動を感じるような…?」
…え?
ホントに!?
目の前にいる京一を見つめながら改めて魔力の波動を探ってみる。
…う、嘘っ!?
魔力の波動はまだ途絶えていなかったのよ。
一見、死亡したように見えるけれど。
魔力の波動は微弱ながら残っているの。
「京一!?」
必死に呼び掛けてみるけれど。
京一は何も答えない。
だけど今にも消えそうな魔力の波動は確かに感じ取れるのよ。
「まだ生きているのっ!?」
僅かな可能性に気付いたことで、
筑紫さんが京一の胸に耳を当てていたわ。
「心臓は止まってるみたい。だけど今ならまだ間に合うかも…」
魔力の波動が有る限りは生命力が存在する証だから。
「だけど、治療は…」
…ええ、そうね。
薄暗い拷問部屋では安定した治療は行えないわ。
ちゃんとした診断を行うためにも、
場所を変えたほうが良いでしょうね。
「だったら急いで外に行くわよ!盛長君が京一を運んで!!」
「良し!任せろ!!」
私の指示によって盛長康平が即座に京一の体を背負ってくれたわ。
こうして私達は京一の生存を信じて、
王城の外に運び出すことにしたのよ。
「急ぐぞっ!!」
「ええ!」
微かな希望に願いを込めて王城の脱出を急ぐ盛長康平のあとを追って私達も走り出す。
…だけど。
このまま京一の傍にいても私は何も出来ないわ。
「死なせないわよ…京一。」
この状況で私にできることはただ一つ。
盛長康平達とは別の方向に走り出した私は、
ただ一つの可能性に賭けて謁見の間まで急ぐことにしたの。




