覚悟はよろしいですね?
「それでは扉の結界を解除します。ご覚悟はよろしいですね?」
………。
力尽きた彼を仲間に再会させる瞬間の訪れに、
私はかつてないほどの恐怖を感じていました。
何故なら彼は私のせいで死んでしまったからです。
こみ上げてくる罪の意識によって、
これからのことを考えるだけで自然と体が震えてしまいました。
「わ、私のせいで…っ。」
「全てを受け入れるしかありません。悲しみも喜びも、怒りも苦しみも、全てを受け入れるしかないのです。」
「…全て、を?」
「そうです。」
「…で、でもっ!」
「でも…は、通りません。こういうこともあるということは最初から分かっていたはずです。」
「そ…それはっ!」
「それは…も、通りません。これが戦争である以上、犠牲はつきものだからです。仲間だけが誰も死なずに終わるなど、そんな都合の良い話はありえません。」
「…だとしても!」
割り切ることなんて出来ません。
目の前で亡くなった方がいるのに、
戦争だからの一言で片づけるなんて私には出来ませんでした。
「…こ、こんなことなら…っ。」
「こんなことなら?何ですか?ここに来なければ良かったということですか?」
「…ち、ちが…っ!」
「それでは何ですか?何もせずに、外の仲間達に彼を委ねれば良かったという意味ですか?」
………。
「あるいは戦争に参加しなければ良かったという意味でしょうか?」
「…ち、違います…っ。」
「では?」
………。
杞憂様の指摘に私は何も言い返せませんでした。
…私は?
私はどうしたかったのでしょうか?
「私は…どうするべきだったのですか?」
「それは唯様ご自身で考えることです。私が強制するものではありません。」
「杞憂様は…お厳しいですね。」
「…かもしれませんね。ですがこれが私達の選んだ道なのです。」
………。
魔術師との共存。
新たな世界の創造。
3カ国同盟を成立させるために選んだ茨の道。
私が望んでいた平穏は、
守るべき人の死も含まれていたということです。
「何かを変えようと願えば、相応の反動は起こるものです。」
「…これも、その反動の一つということですか?」
「結果的に、そういうことになるのでしょう。」
…っ!!
「私が願った理想の為に…守るべき人達まで死んでしまうのですか!?」
「その通りです。」
「そんな…っ!」
「唯様…。唯様はお考えにならなかったのですか?自らが背負う危険性は当然のことながら、唯様のために同行している我が軍が一人も亡くならずに戦争を終えられるなどと本気で信じておられるのですか?」
「そ、それは…っ!」
「同じことです。目の前で死ぬか?知らないところで死ぬか?その違いはあれど、唯様の理想の為に命を掛けて戦場で倒れていく者達は必ず現れるのです。」
………。
「その時に唯様はどうされるのですか?誰かが亡くなる度に、そのようにお嘆きになられるのですか?」
………。
「それとも目の前で亡くなった者にだけ涙を見せて、知らぬ間に亡くなった者達のことは考えないようにするのですか?」
………。
「何が正しくて、何が間違っていると言う話ではありません。最終的にご判断なされるのは唯様ご自身ですので、私から言うべきことは何もありません。」
………。
「念のために改めて聞かせていただきますが…ご覚悟はよろしいですね?」
………。
杞憂様の問いかけに私は何も答えられませんでした。
ですが、答えられなかったからこそ。
私の心を守るために。
どうすることも出来ない絶望を振り払うために。
杞憂様は私に現実を突き付けようとしていました。
「結界を解除します。」
「は、はい…。」
冷静に告げる杞憂様を引き留めることもできないまま、
扉を塞いでいた結界が解除されてしまいました。
…そして。
結界が失われると同時に、
外部から放たれた魔術によって拷問部屋を塞ぐ鋼鉄の扉が粉々に破壊されてしまったのです。




