きみの、おかげで
《サイド:御神唯》
…ふう。
人が集まり始めた時にはどうしようかと焦ってしまいましたけれど。
杞憂様のおかげで彼の仲間は室内に入れない様子でした。
「外のことは気になさらずに治療に専念してください。」
「は、はいっ!」
私としてはすでに精一杯の治療をしているつもりです。
考えられる全ての治療は出来たと思っています。
…ですが。
だからといって治療が終わったとは言えません。
「最低限の怪我の治療は終わったと思います。火傷の治療も出来ました。ですが…」
体内の治療は進んでいないのです。
砕けた骨や壊れた指先。
潰された瞳の治療はまだ始まってもいません。
「まだまだ時間がかかります。」
「…そうですか。」
小さな声で会話をしながら治療を継続する間にも、
扉の向こうでは攻撃が行われています。
…かなり焦っているようですね。
何度も何度も繰り返される爆音に怯えながら、
必死に治療を続けました。
「せめて外見だけでも…」
見た目だけでも治療を終えられれば、
あとは他の方々に治療を任せても問題はないはずです。
「瞳の治療は私には無理でも、指先だけは何とか…」
正常に動かせるまで治療するのは難しいのですが、
拷問の痕跡を隠すくらいなら出来ると思います。
…あと少しだけ。
もう少しだけ時間が稼げればと考えていると。
「…ありがとう…。」
不意に、お礼を言っていただけました。
「きみの、おかげで…すごく楽になれた…よ。」
「い…いえっ。そ、そんなことは…っ!」
そんなはずはありません。
私がしている治療は単なる誤魔化しでしかないからです。
完璧な治療が出来ないから。
完全に治すことが出来ないから。
表面的に治療しているだけでしかありません。
だから苦しみから解放されるなんてありえないのです。
…それなのに。
「きみの、治療のおかげで…僕は、十分に、救われ…たんだ。」
一言一言に想いを込めて、
私に感謝の気持ちを伝えてくれていました。
「だから…ありが、とう…。」
…っ!
彼の優しい言葉を聞いた瞬間に、
私は悔しさを感じて涙を流していました。
「ご…ごめんなさい…っ!私の力が足りないせいで、あなたを救えなくて…ごめんなさい…っ。」
私の力では完治は出来ません。
そこまでの技術が私にはないからです。
だから彼を苦しめる痛みまでは癒せませんでした。
「私がもっとしっかりしていれば…っ!私がもっと魔術を使えれば…っ!」
彼を苦しみから解放できるはずなのです。
ですが、医者ではない私に完璧な治療は出来ません。
回復魔術は正確な理論構築が出来ない限り成功しないからです。
だから私は認識できる範囲内の治療しか出来ませんでした。
「ごめんなさい…っ。」
彼を苦しめる絶望に対して私は何も出来ないのです。
体を汚す血の流れを止めることは出来ても。
体を苦しめる傷や火傷を癒しても。
砕けた骨や壊れた指先まではどうにもならないのです。
そして潰されてしまった瞳の治療も出来ません。
「ごめんなさい…。」
出来る限りの治療を行ってもどうにもならない限界。
アルバニア王国で育ったことで、
正式な訓練を受けた経験がない私にはこれ以上の治療は出来ませんでした。
「ごめんなさい…っ!」
何度も何度も謝罪しました。
ただそれだけしか出来なくて、
自分が情けないと考えてしまったからです。
ですが彼は私を責めようとはしませんでした。
「…もう…良いんだ。」
何も出来ない私に…笑顔を向けてくれたんです。




