見せるわけにはいかない
《サイド:御神唯》
…っ!?
これは!?
予想以上に酷い怪我です。
重症と言う言葉では表現できない惨状。
この状態からの治癒なんて、
不可能としか思えません。
…無事と判断できる場所なんて何処にもないです。
全身に及ぶ骨折に、焼けただれた体。
潰れた瞳に、壊れた指先。
これら全てを治療することなんて出来そうにありません。
…たぶん、私には無理です。
目を向けて直視することさえ出来ないほど無残な状態だからです。
一体、どれほどの拷問を受ければ、
こんな状況になってしまうのでしょうか?
この場でこういう言い方は失礼かもしれませんけれど。
生きていることが不思議に思えるほどの状態なのです。
…ここまで壊されてしまった状況で治療なんて出来るのでしょうか?
自信はありませんが、
私が諦めてしまえばそこまでです。
このまま私が何もしなければ間違いなく死に至るはず。
…出来る限りの努力はしないと。
精一杯の努力をするために回復魔術を展開したのですが。
「なっ!?馬鹿なっ!!」
私の行動を見ていた岡田義範さんは、
私達が現れた時以上の戸惑いを感じている様子でした。
「御神の一族に魔術師だとっ!?」
どうやら杞憂様と同様に、
私の名前も知っているのですね。
岡田義範さんはこれまで隠されていた真実を目にしたことで動揺しているようです。
「まさか…陰陽師の国において魔術師の存在を認めているのか!?」
「………。」
………。
私も杞憂様も何も答えませんでした。
私としては治療に専念したかったからというのが理由ですが、
杞憂様は意図的に説明を避けているように思えます。
「アルバニアが…裏切るのか?」
戸惑う様子の岡田義範さんが私達の行動を眺めている間にも、
私は治療を進めることにしました。
…ですが。
治療を始めてばかりの状況なのに、
複数の足音が拷問部屋に向かってきているのが聞こえてきます。
…おそらく共和国の方々ですね。
魔力の波動が感じられるので、
イーファ側の援軍というわけではなさそうです。
「どうやら彼の仲間が駆け付けたようだな。」
慌てた様子で近づいてくる足音を聞いた杞憂様も瀕死の彼の仲間だと判断したようです。
「…だが、今はまだ早いか。」
杞憂様は部屋の外の状況を確認せずに、
一つしかない扉を閉めてしっかりと鍵をかけていました。
「命をかけた彼の姿を見せるわけにはいかないでしょう。」
…ええ、そうですね。
この町に潜んでいた仲間のために。
自らの身を差し出した結果として目も向けられない状態となった彼の姿を見せてしまえば、
ここに駆けつけた方々は自責の念に囚われて激しい絶望を感じてしまうかもしれません。
「せめて…ある程度の治療が終わるまでは待って頂いたほうが良いかもしれません。」
「ええ、そのほうが良いでしょう。」
一時的に面会謝絶にして、
今は治療を優先することにしました。
…ですが。
杞憂様でさえも哀れに感じるほどの傷跡のせいか、
治療は難航してなかなか思うように進みません。
「ふむ。もう少し時間が必要か。ならば…彼らが納得するかどうかは分からないが、一時的に足止めをしておこう。」
彼の姿を晒すわけにはいかないという判断によって、
杞憂様は陰陽術で出入り口の扉を封鎖していました。




