賢明な判断
《サイド:杞憂幻夜》
…ふむ。
噂には聞いていたが、
まさか本当にいるとはな。
「たった一人で国と戦った英雄がいると聞いてここまで来たのだが…どうやら間に合ったようだな。」
椅子に拘束されてはいるが、
まだ生きている少年を見て笑みを浮かべる。
そんな俺の余裕の笑みを見た岡田義範は恐怖に縛られて身動き一つ取れなくなっている様子だった。
「さ、最悪だ…っ。」
ここで争っても勝てないと分かっているのだろう。
あらゆる陰陽師の頂点に立つ俺を殺せるはずもなく、
岡田義範がどれほど願ってもその手の刃は届かない。
「せめて里仲利光がいれば…っ!」
…ああ、里仲か。
あの男ならば上にいるはずだ。
仲間の助けを願う岡田義範だが、
現実は思い通りにはならない。
「ま、まずい…っ!ここに杞憂幻夜がいるということは…っ!?」
…ほう。
気付いたか。
すでに王城はアルバニア軍の支配下にあるということだ。
そしてそれは王族の全滅も意味している。
「こ、国王様はどうしたっ!!」
震える体で必死に問い掛ける岡田義範に微笑みを浮かべながら答えておく。
「上ならば魔術師の部隊によって制圧済みだ。イーファを襲っていた魔術師達が…な。」
「馬鹿なっ!!魔術師と手を組むつもりかっ!?」
…ああ、そうだ。
陰陽師軍と共和国軍が同時に王城を攻めている事実に戸惑う様子の岡田義範を眺めながら、
ひとまず室内に歩みを進めてみることにした。
「大人しく降伏するなら見逃してやろう。だが戦うつもりならば容赦はしない。」
今更、兵を皆殺しにしても意味がないからな。
敵対しないのであれば逃がしてやろうと告げたことで、
イーファの兵士達は慌てて部屋の外へと逃げていった。
「にっ、逃げろーっ!!」
「うぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺を恐れて拷問部屋から逃げ出す兵士達の逃亡を岡田義範は止められずにいる。
「くっ!この状況では…っ!」
どう考えても俺は倒せないだろうな。
配下の兵士達が逃げ出して一人になった岡田義範に俺は倒せない。
「くそっ!もはやここまでか…っ。」
…ああ、そうだ。
もはや敗北を受け入れるしかないのだ。
ここで俺に襲い掛かっても返り討ちにあうのは確実。
死が確定した突撃に意味はない。
「ちっ!」
激しい怒りを感じながらも剣を捨ててくれたことで、
岡田義範の降伏を認めることにした。
「賢明な判断だ。」
無駄な死を避けて敗北を認めた岡田義範は見逃すことにしよう。
「彼の身柄は俺達が引き受けるが、異論はないな?」
「…ああ、好きにするがいい。」
イーファが滅びる状況で彼に固執する理由はないのだろう。
岡田義範は大人しく少年の拘束を解除してくれていた。
「これで文句はあるまい?」
全ての拘束を解いて少年を解放した岡田義範の行動を見届けてから、
後方に隠していた唯様に指示を出す。
「それでは、唯様。彼の治療をお願いいたします。」
「は、はいっ!!」
即座に彼の治療を始めた唯様は、
その手に魔術を展開させて少年の治療を始めてくれた。




