微妙すぎて分かり難い
「…お帰りなさい。…乃絵瑠さん。」
「うん。ただいま、奈々香。」
口数が少なくて表情に変化が見えにくいけど。
今日は珍しく奈々香から話し掛けてきてくれたのよ。
「乃絵瑠さんなら、帰ってくると信じていました。」
「あ~、うん。ありがとう」
…って言うか。
美咲さんも言ってたけど。
確かに奈々香は分かり難いわね~。
ほとんど感情を表さないせいで、
表情から思考を読み取るのが難しいのよ。
こうなると深層心理を把握するのも難しいわ。
未来とあずさは分かりやすいんだけどね~。
…彩花と奈々香は分かり難いのよ。
美咲さんでさえもお手上げ状態の奈々香の心理は私にも分からないけれど。
それでも奈々香の言葉が真実なのは疑う必要もないくらい感じられる。
…何となくだけど。
…楽しそう、かな?
ギリギリの判断で感じ取れるのよ。
ただそれが真実かどうかを確認する方法がないんだけどね。
それでも何となく。
本当に何となくだけど奈々香の冷静な表情が楽しそうに微笑んでいるように見えたのよ。
…本当に微妙すぎて分かり難いわね。
いつも笑顔の彩花と、
いつも無表情の奈々香の心理だけは相当努力しないと判断できないと思う。
…まあ、あまり心を覗きすぎるのも良くないけどね。
なんて考えていると。
奈々香が一つだけ問い掛けてきたわ。
「…乃絵瑠さん。ここを去ったあとでギルドに向かったのではないか?という話を聞きましたが、本当ですか?」
…ん?
あれ?
…もしかしてバレてたの?
「もしかして私の居場所を探査したの?」
今もまだすぐ傍にいる未来に確認してみると。
「ええ、一応ね。」
未来はあっさりと認めていたわ。
「町の内部なら、ほぼ全域を調べられるわよ。」
…うわぁ~。
バレバレだったのね。
気楽に微笑む未来の発言を聞いた私は、
彩花達が私の居場所を把握していたことを知ってしまったわ。
…なのに。
そっとしておいてくれたのね。
みんなの配慮に感謝しつつ。
改めて奈々香に振り返ることにしてみる。
「えっと…まあ、そうなるわね。ギルドで美咲さんに出逢ったわよ。」
「………。」
私にとっては喜ぶべき出逢いだったんだけど。
奈々香にとってはそうじゃないみたい。
「何か…何か失礼なことはありませんでしたか?」
ホンの僅かに怒りの気配を発している気がするのよ。
今回も微妙な変化なんだけど。
それでも不穏な気配を感じたことで苦笑いを浮かべてしまう。
「ま、まあ…色々あったのは事実かな?」
キスや食事等々。
精神的にズタボロになったのは事実だから。
「でもまあ、そんなに心配するほどではないけどね…。」
「………。」
控え目に答えてみたことで、
奈々香は私の瞳をまっすぐに見つめてから追求を放棄してくれたの。
「…それだけ聞ければ十分です。」
何故か冷たささえ感じる言葉で会話を打ち切ったのよ。
彩花達は何も気付いてないようだけど。
私は異変を感じてしまってた。
…何故か奈々香が怖いわよね?
明らかな怒りを感じさせるのよ。
表情そのものはいつもと同じはずなのに、
何故か雰囲気だけが大きく変わっているの。
「ね、ねえ。どうかしたの?」
「いえ…。乃絵瑠さんは気にしないで下さい」
急に笑顔を見せた奈々香は明確な答えを避けてる。
だけど彩花達が驚くほどはっきりとした笑顔を見せた奈々香は、
あっさりと私に道を譲ってくれたのよ。
「どうぞ。乃絵瑠さんは先に迷宮へ向かってください。」
「う、うん。」
会話を終えた奈々香は、
そのまま出口に向かって歩き出してしまったわ。
「えっと、どこに行くの?」
「…少しだけ用事が…。それと、お仕置きです…。」
…お仕置き?
よく分からない言葉を残した奈々香は控室を出て行ってしまったわ。
…何なの?
残された私達は一様に戸惑いの表情を浮かべてる。
「どこに行ったのかしら?」
「さあね。ここで悩んでいても仕方がないことよ。」
未来も戸惑う状況で、
再び彩花が私に歩み寄ってきたわ。
「それよりも乃絵瑠はさっさと暗黒迷宮に向かいなさい。そして成長を示すのよ。」
「あ、うん。そうね。」
彩花の言葉に後押しを受けて再び歩きだすことにしたわ。
「それじゃあ、行ってくるわね。」
みんなが成長してる中で私だけ出遅れているから。
さっさと暗黒迷宮を攻略してみんなに追いつくために入口へ続く扉を開くことにしたの。
…さて、と。
ここからが本番よね。
背後で見送ってくれるみんなに感謝しつつ、
改めて暗黒迷宮に挑戦することにしたのよ。




