それは結構です
《サイド:矢島美咲》
乃絵瑠ちゃんと交わす最後のキス。
これは悪意のない純粋な愛情だったと思う。
唇が触れて互いの温もりを分かち合うだけの優しい口づけ。
それでも私はこれまでの人生において一番の幸せを感じていたのよ。
…大好きよ。
乃絵瑠ちゃん♪
『はい。私も大好きですよ。』
心の中で想う私の気持ちに、
乃絵瑠ちゃんも心で答えてくれていたわ。
互いに交わる心。
言葉にしなくても伝わる想いが、
私達の心を幸せで満たしてくれていたの。
…ありがとう。
乃絵瑠ちゃん♪
感謝の想いを心で伝えてから最後のキスを終える。
「…これで悔いはないわ。私はもう十分に幸せだから♪」
互いに見つめ合うだけで心が交わり合う幸せ。
これ以上の幸せなんて、
きっと世界中のどこにもないはずよ。
「ありがとう♪乃絵瑠ちゃん♪」
笑顔で見つめ合う。
…だけどね。
密かに私はこれから起こりえることを想定しているの。
…まあ、そういうことも起こり得るわよね?
否定出来ない可能性があることで、
残された時間で乃絵瑠ちゃんに話し掛けることにしたわ。
「それじゃあ、そろそろ最後の仕上げといきましょうか♪」
「え?仕上げ…ですか?」
…ええ、そうよ。
疑問を感じる様子の乃絵瑠ちゃんに最終確認を求めることにしたの。
「乃絵瑠ちゃんがどのくらい成長したのか?そしてその力は私を越えるものなのかどうか?それを確認してから訓練を終わりにしましょう♪」
乃絵瑠ちゃんの力を知るために。
そして私自身の限界を知るために。
乃絵瑠ちゃんとの戦いを望むことにしたの。
「勝負は一度きり。お互いの魔術をぶつけ合って突き抜けたほうが勝ち。簡単でしょっ♪♪」
どちらの魔術が勝つのか?
その結末を求めたことで、
乃絵瑠ちゃんは笑顔で勝負を受けてくれたのよ。
「手加減はしませんよ?」
「あらあら♪随分と強気ね。お手柔らかにお願いするわね♪」
そっと微笑んで乃絵瑠ちゃんを見守る。
そんな私に微笑みを返した乃絵瑠ちゃんはゆっくりと起き上がったわ。
「…ん~。やっぱり膝枕のままが良いかな~?」
…ふふっ。
心残りを感じる様子の乃絵瑠ちゃんが可愛くてたまらないわ。
「膝だけじゃなくて、私の『全部』を乃絵瑠ちゃんにあげても良いのよ♪♪」
「あ、いえ…。それは結構です。」
…あらあら。
つれないわね〜。
早々に拒絶してくれた乃絵瑠ちゃんはささっと立ち上がってしまったわ。
「とりあえず、いつでも良いですよ!」
「そう?それじゃあ、始めましょうか♪」
絶えることのない笑顔で向き合いながら、
私達は最後の訓練を始めることにしたのよ。
「全力で行きます!」
…ええ。
見せてもらうわね。
乃絵瑠ちゃんの手に生まれる新たなルーン。
金色の弓は以前よりも威圧感が増しているようね。
「全ての存在を打ち抜くルーン。これが私の心の形です。」
…ふふっ。
素敵だと思うわ。
自信を持って宣言する乃絵瑠ちゃんに応えるために。
私もルーンを発動することにしたの。




