別の意味で
………。
…ぅ。
…んっ?
小さな声を漏らしながら闇から目覚めたわ。
…戻ってこれたのよね?
闇を乗り越えて。
力を手に入れて。
新たな能力に目覚めたことで、
無事に魔術の影響から脱出することが出来たのよ。
…あぅぅ。
目の前には美咲さんがいる。
それもなんだか膝枕されてたようで、
本当に目の前に美咲さんがいるのよ。
「…えっと~。おはようございます…?」
自分でもどうすれば良いのかが分からなかったわ。
何となく気恥ずかしくて。
だけどすごく満たされた気分で。
上手く言葉にできない不思議な気持ちを感じていたからよ。
…だけどね。
きっとこの気持ちは美咲さんも同じだったかもしれない。
戸惑う私を見ていた美咲さんも優しく微笑んでくれていたから。
「おはよう♪乃絵瑠ちゃん♪それと…お帰りなさい♪♪」
…あ、うぅぅぅ。
不意に込み上げてくる感情のせいで泣きそうになってしまったわ。
…美咲さん。
ちゃんと私が目覚めたことで、
美咲さんが笑顔のままで涙を流していたからよ。
「お帰りなさい、乃絵瑠ちゃんっ♪」
自然とこぼれ落ちる涙。
これはいつものような偽りの涙じゃなくて、
悲しみの涙でもない喜びの涙だったの。
「…ごめんね、乃絵瑠ちゃん。」
生まれて初めて感じる孤独からの解放。
そんな奇跡的な出会いを喜んで涙を流してくれているのよ。
「私のせいで辛い想いをさせて…私のせいで地獄に巻き込んでしまって…ごめんね…。」
………。
美咲さんは私を地獄に巻き込んだことを謝罪してくれてた。
…でもね。
これはきっと私の運命だったんじゃないかな?
…ううん。
こういう言い方はちょっと違うかな?
…きっとこれは私が望んだ結果なのよ。
今ならそう思えるから。
美咲さんの膝枕の温もりを感じながら笑顔で答えることにしたの。
「良いんですよ。もとはと言えば私が美咲さんにお願いしたことですから…だから美咲さんは気にしないでください。」
今も私の心を襲う流れは止まらない。
周囲の人々の感情や心が強制的に流れ込んで来るのよ。
だからと言って、
正確な思考が理解できるわけじゃないけれど。
それでも美咲さんと同じくらい、
相手の顔を見るだけである程度のことは理解できるようになってしまっていたわ。
…欲望や下心も、ね。
何もかもが分かってしまうのよ。
「まあ…でも確かに、男の人の視線は…ちょっぴり痛いですね。」
私や美咲さんの体を眺める視線から読み取れる思考は純粋なくらいに下心満載で、
知りたくもないようないやらしい欲望に満ち溢れているのよ。
…とは言っても。
女性の視線や感情も決して善意とは限らないけどね。
容姿に対する嫉妬や羨望。
あるいはごく単純に『お腹が空いた』とか『お金が欲しい』とか。
様々な想いが溢れているのよ。
まあ、悪意や欲望だけじゃなくて、
まっすぐに誰かを想う人や夢に向かって努力を行っている人もいるけどね。
ただ、どちらかと言えばそういう人は小数だと思うわ。
それでも世界は悪意だけで成り立ってるわけじゃないってことよ。
「これがこの世界の真実なんですね…。」
欲望が渦巻く世界。
この世界では誰もが自分の心を隠して生きているわ。
欲望を抑えて。
争いを避けて。
少しでも平和で幸せな日々を望んで互いに助け合って生きているのよ。
そんな日常を眺めながら、
改めて美咲さんに問い掛けてみることにしたの。
「美咲さんは、ずっとこの世界を見ていたんですね。」
「ええ、そうよ。愛も夢も希望も…嫉妬も欲望も裏切りも…全てを見てきたわ。」
相手の心が理解できるという能力。
その絶望を分かち合えるようになった私達は自然と笑顔を向けあってた。
「うぅ~ん。美咲さんの膝の上は気持ち良いですね。」
「あら、そう?乃絵瑠ちゃんになら毎日してあげても良いわよ♪」
…うわぁぁぁ。
「それはそれでちょっぴり幸せすぎて…あとが淋しいかも?」
「ふふっ♪そう?何なら24時間ずっと傍にいてあげても良いわよ♪」
…あ~。
「でもそれはそれで『別の意味』で怖いです。」
美咲さんの心を知って、
美咲さんを好きになれたとは思うけれど。
だからと言って『そういう関係』を望むつもりはないわ。
「私にそういう趣味はありませんから。」
笑顔で告げてみたけれど。
「今はそうでも、いつか変わるかもしれないでしょ♪」
美咲さんも笑顔で答えてくるのよ。
「私がその気になれば乃絵瑠ちゃんを口説き落とすくらい簡単なのよ♪」
…うあぁぁぁ。
確かに。
…秒で負けそうかも。
眩しいくらい魅力的な美咲さんの笑顔にね。
すでに屈しそうになっているからよ。
…でもまあ、今はまだ大丈夫だと思うけどね。
「とりあえず、ありがとうございました。美咲さんのおかげで私もちゃんと成長出来ました。その代償として…私はこの力と一緒に生きて行きます。」
心を理解できてしまう能力。
知りたくないことを知ってしまうという能力と共に生きていくこと。
その覚悟を美咲さんに告げてから、
私は私の想いを告げることにしたの。
「今なら自信をもって言えます。ありがとうございました。美咲さんと出会えて良かったです。美咲さんがいてくれて良かったです。それだけは心から思えるんです。」
…だから。
だから今ならちゃんと伝えられると思うの。
「私の心に嘘はありませんから…。私の心は真実を伝えられるから…。だからこの想いは本物で、心からの感謝の気持ちです。」
この想いを伝える為に。
たった一言に想いを込めて美咲さんに感謝したわ。
「美咲さんと同じ力で、美咲さんの心を知りました。そして美咲さんの想いを知ったから…今では美咲さんのことが、すごく大好きです。」
「………。」
自分に出来る最高の笑顔で美咲さんに微笑んでみる。
そんな私を見つめていた美咲さんは、
少しだけ驚いたような表情を見せてからいつものように微笑んでくれていたわ。
「…ねえ、乃絵瑠ちゃん。これが最後で良いから、もう一度だけ『キス』をしても良い?」
…ん~。
これで最後か~。
…そう思うと、なんだか複雑な気分かも?
強制ではなくて私の意志に委ねるキスだから。
悪意なんて微塵も感じられなかったのよ。
「良いですよ。」
恐怖も不安も何もない。
ただ美咲さんを信じて、
ただ美咲さんを想うだけ。
だから私はそっと瞳を閉じたの。
そして何も言わずに全てを受け入れることにしたのよ。
「乃絵瑠ちゃん♪」
美咲さんが唇を近付けてくる。
愛を込めて。
想いを込めて。
そっと髪をかきあげながら。
優しくキスをしてくれたのよ。




