愛を失った心の闇
…私は、ここにいる。
私はここにいるのよ。
闇の中にいても。
絶望の中にいても。
文塚乃絵瑠という存在は確かな現実として存在しているわ。
世界がどうだとしても。
他人が何を想うとしても。
私は確かに存在し続けているのよ。
…私は、私。
世界の狂気を知って。
世界の愛を知って。
心を理解出来るようになってしまったことで。
自分自身の存在にも気付けるようになったのかも?
…そっか。
私は私なのよね?
…世界が何を想うとしても。
世界がどれほど壊れているとしても。
…私は私なのよ。
自分という存在を認めて、
自分という存在を感じることで、
心が再構築を始めたわ。
…ただ全てを受け入れるだけで良いの。
無理に理解しようとは思わない。
自然のままに受け止める覚悟を決めただけ。
だけどその瞬間にね。
私の心を蝕んでいた絶望から解放されたような気がしたわ。
とめどなく流れ込む感情を受け入れて。
とめどなく流れ込む心を受け入れて。
全てを受け入れることが出来るようになったのよ。
…善も悪も。
全てがこの世界の一つの形だから。
世界が『光と影』で成り立っているように。
この世界には善意も悪意も溢れているということよ。
そんな当たり前の真実を受け止めて、
壊れた心を意志の力でつなぎ合わせることにしたわ。
…今なら分かる。
美咲さんの絶望が。
美咲さんの悲しみが。
…今なら分かる気がするわ。
私に願いを託して想いを込めた美咲さんの気持ちが、
今の私にははっきりと理解できるようになったから。
…分かる。
分かるよ。
…美咲さん。
今の私なら、美咲さんの心が分かります。
美咲さんの心に巣くう底知れない闇も。
心を蝕む現実という名の絶望も。
今なら全てが理解できる気がする。
…ただ、淋しかったんですね。
心を分かち合えない永遠の孤独。
相手を知りすぎるからこそ、
真実は容赦なく美咲さんの心を蝕んでいく。
そんな絶望と失望の連鎖。
そして訪れた孤独が美咲さんを苦しめていたのよ。
強大すぎる力の代償として愛を失った心の闇。
その闇を知って美咲さんの苦しみを知った私は、
ただ一心に美咲さんの幸せを願っていたわ。
…私がいるから。
私が傍にいるから。
…だから。
だからもう。
…泣かないでください。
闇の中で囁く。
ただそれだけのことで、
美咲さんの心に変化を与えたのが感じられたの。
『…ありがとう。ありがとう…乃絵瑠ちゃん…。』
初めて出来た心から信頼できる相手。
私というただ一人の存在に、
美咲さんは心から感謝してくれたの。
『ありがとう…乃絵瑠ちゃん…。』
想いを分かち合える相手がいるということ。
互いの心を知って。
互いの想いを知って。
人を愛することの喜びを。
美咲さんは生まれて初めて知ったみたい。




