こうは思わないかしら?
「さあ、そろそろ始めましょうか。乃絵瑠ちゃんが新たな力に覚醒して成長するのか?それとも闇に落ちて消え去るのか?その結末を見せてもらうわね。」
…え?
闇に落ちて消える!?
何それ!?
…どういうこと!?
そんな話は聞いてないわよね!?
「あらあら?そうだったかしら?」
ものすごく心外そうな言い方をしてるけれど。
そんな無茶な選択肢なんて絶対に聞いてないはずよ。
「ええ、そうでしょうね。だって言ってないもの。」
…は?
「だって先に言っちゃったら、絶対に嫌って言うでしょ?」
…そ、そんなの当然じゃない!
「だから何も言わなかったのよ。」
…いや、だからとか言われても困るんですけど。
「まあ、そうでしょうね〜。だけど、こうは思わないかしら?」
…何ですか?
「命を掛けられない程度の気持ちで、自分自身の限界を超えられるなんて思っているの?」
………。
「ちょっと努力しただけで強くなれるのなら苦労なんてしないわよね?」
………。
「その程度の成長で良いのなら無理にとは言わないけれど、乃絵瑠ちゃんが望む成長ってその程度でいいの?」
………。
「強くなりたいんでしょう?大切な人を守れるように、力を望んでいるんでしょう?」
………。
「それは命を掛けなくても手に入るようなものなの?」
………。
「それは命を掛けてでも手に入れたいものなの?」
………。
「乃絵瑠ちゃんにとってはどちらが正解なのかしら?」
………。
美咲さんの指摘に対して私は何も言えなかったわ。
一分の隙もなく、反論の余地がなかったからよ。
「今まで何も言わなかったのはね。言葉にする必要がなかったからよ。だってそうでしょ?乃絵瑠ちゃんは成長を望んで、私は協力することを誓ったのよ。だったらあとは必要な手順を順番に進めていくだけでしかないわ。」
…確かに。
美咲さんの説明には非の打ちどころが一切ないわね。
「ふふっ。分かってくれたようで何よりよ。それじゃあ改めて聞くけれど…乃絵瑠ちゃんが目指すものは何?それは命を掛ける価値があることなのかしら?」
…もちろんそのつもりです。
何を目指せばいいのかは今でもまだ分かってないけどね。
それでもみんなを守れるくらいに強くなれるのなら、
命を掛けるくらい惜しくはないわ。
「あら、良い心がけね。」
私の気持ちを確認した美咲さんは、
不意に笑顔を消して何らかの魔術を発動させようとしていたわ。
「それじゃあ、始めるけれど。今から発動するのは『即死魔術』よ。」
…はっ?
即、死?
「ええ、そう。即死魔術。この魔術を受けて生き残れた人は今のところいないわね。」
…えっ?
えええええええええええええええええええっ!?
「だけどもしも生き残れたとしたら、乃絵瑠ちゃんも手に入れることが出来るはずよ。」
…手に、入れる?
何を?
「私がたどり着いた闇の極地を…。」
…闇の極地?
「それが何なのかは乃絵瑠ちゃん自身が考えなさい。」
…それって、助言なしってこと?
「当然でしょう?」
…う、嘘っ!?
「あら?言わなかったかしら?私は『嘘』は言わないってね。」
…うぁぁぁぁ。
もう嫌って言うほど聞かされました。
「それじゃあ、頑張って生き残ってね♪」
…ちょっ!?
「デビル・メイ・クライ!!!」
…う、嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
美咲さんの言葉と共に生まれたのは文字通りの闇だったわ。
光を通さない深淵を見てしまったことで、
体が恐怖に支配されてしまって身動きがとれないまま立ち尽くしてしまったのよ。
…し、死ぬぅっ!?
心の奥底から込み上げる恐怖。
『悪魔すらも涙する』と名付けられた漆黒の闇が、
私の体を一瞬にして飲み込んでしまったの。




