史上最恐
「それじゃあ、乃絵瑠ちゃん♪」
「は、はい…っ。」
甘い吐息を必死に堪える私の耳元で、
美咲さんが囁き続けてくる。
「今から乃絵瑠ちゃんが目指すべき方向に導いてあげるわね。」
…え?
私が目指すべき方向?
「ええ、そうよ。心の奥に隠れた力と才能を私が引き出してあげるわ。」
…へ?
隠れた力と才能って、何?
理解できない言葉が多すぎて疑問を感じてしまうんだけど。
「大丈夫よ♪何も心配しなくて良いから、全て私に任せなさい♪♪」
結局、美咲さんは何も教えてくれなかったのよ。
「乃絵瑠ちゃんの才能の全てを引き出してあげるわね♪」
才能?
…うぅ~ん。
私の才能って何なの?
まだ何も分からないけれど。
それでも美咲さんはまるで全てを把握してるかのように囁き続けてくる。
「心配しなくても大丈夫♪私の指示通りにすれば、すぐに理解できるわ♪」
…ホントに?
「ええ、そうよ。私を信じてくれるかしら?」
…ん~?
まあ、ここまで来たら信じるしかないわよね。
「ふふっ。良い子ね♪」
下手に反抗しなかったのが良かったのか、
美咲さんは笑顔で私の頭を撫でてくれていたわ。
「それじゃあ、私に任せなさい♪♪必ず乃絵瑠ちゃんを成長させてあげるから♪」
…必ず?
何が何だかよく分からないんだけど。
私から離れた美咲さんは早速、
訓練を始めようとしてるみたい。
「私が『闇の全て』を教えてあげるわね。米倉美由紀でさえも成し得なかった『真の闇の力』を教えてあげるわ。」
…へっ?
米倉代表でも無理だった力?
…何それ?
どういうことなの?
最後の最後まで分からないことだらけなんだけど。
言葉の意味を理解出来ない私に、
美咲さんは何かを伝えようとしているのよ。
「ああ、そうそう…そう言えば私の自己紹介がまだだったわね〜。」
…ん?
自己紹介?
今さら?
…それって奈々香のお姉さんっていう話じゃなくて?
「それも間違いではないわ。」
…え?
間違いじゃない?
…と言うことは、職業的な意味なのかな?
「そうね~。ある意味ではそうかもしれないわね〜。」
…ある意味では?
それって単なるギルドの職員じゃないっていうこと?
「いいえ。私の職業はギルドの受付係でしかないわよ。」
…はあ?
どういうこと?
何が言いたいのか全く理解できないわね。
…何が言いたいのかな?
分からないことが多すぎて悩んでしまったことで、
美咲さんは微笑みながら自己紹介を始めたの。
「私の名前は矢島美咲よ。」
…ですよね。
「そして…かつてカリーナ女学園で『共和国史上最恐』と呼ばれた魔女でもあるわ。」
…へっ?
史上最強?
「いいえ、『最恐』よ。」
史上最恐の魔女?
…って?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
突然の発言に戸惑ってしまったんだけど。
驚く私を見ていた美咲さんは、
問答無用で魔術を展開しようとしてる。
「私の特性は堕落よ。」
…堕落?
それって落ちるっていう意味よね?
…あれ?
落とす…だっけ?
「ふふっ。どちらでも良いのよ。あらゆる存在を闇に落とす能力と思っておけば間違いないわね。」
…やっぱり、そういう意味なんだ。
「ええ、そうよ。そして究極の闇の力を持つ私を『暗黒の女王』と呼ぶ人もいたわ。」
…暗黒の女王?
「ふふっ、そうよ。全ての魔女の頂点に立つウィッチクイーンの天敵とでも思ってもらえばいいかしら?」
…うわっ。
何それ?
…あのウィッチクイーンと互角なの!?
「互角という表現が正しいかどうかは難しいところだけど。周りの評価はそうかもしれないわね〜。」
…嘘でしょっ!?
あれと互角なんてバケモノじゃないっ!!
「あらあら。そんなふうに言われちゃうとちょっぴり悲しいわ。」
…いやいや。
そこはちょっぴりとかそういう問題じゃないと思うんですけど?
「ふふふっ。その程度の問題なのよ。少なくとも私やあの子にとってはね。」
…うわぁ。
ウィッチクイーンを『あの子』呼ばわりとか、
頼もしすぎるんですけど。
「あら、そう?乃絵瑠ちゃんに頼られると嬉しすぎていつも以上に頑張れそうな気がするわ。」
…いやいやいやいや。
だからそういう問題じゃない気がするんですけど?
「ふふっ。乃絵瑠ちゃんは本当に面白い子ね。」
…うわあ~。
もう何を言っても通じない気がしてきたわ。
屈折した性格の持ち主や殺傷能力に特化した生徒が多いカリーナ女学園だけど。
その中でも一際『特異な人物』ということは理解出来た気がしたからよ。
そして共和国において史上最恐の能力者と呼ばれるほどの美咲さん力の意味を、
私は身をもって知ることになるみたい。




