どうなりたいのか
《サイド:文塚乃絵瑠》
朝食を終えて午前8時を過ぎた頃。
今日も私は美咲さんと一緒にギルドの地下にある訓練場に移動したんだけどね。
…それはまあ良いんだけど。
「さ〜てとっ♪」
…ん?
何これ?
いつも以上に完璧な笑顔を見せる美咲さんに気づいた瞬間にね。
底知れない恐怖を感じてしまったの。
…こわっ。
「うふふっ。余計なことは考えなくていいのよ。乃・絵・瑠・ちゃん♪♪」
…うぇぇぇっ!?
またバレてるの!?
「まあ、良いけどね〜♪」
…良いんだ?
「ええ、良いのよ♪」
…どういうこと?
何だか今日は機嫌が良いみたい。
いつもなら無駄に追及してくるのに、
今日はあっさりと見逃してくれて、
笑顔で話を続けてくれたのよ。
「とりあえず、今日で訓練は終わりの予定なんだけど…。その前に質問しても良いかしら?」
…え?
質問?
急に聞かれると怖いんですけど?
「え〜〜〜っと…はい。何ですか?」
不安だらけの心境で問い返してみるとね。
「それほど難しいことじゃないのよ。」
美咲さんは私をまっすぐに見つめながら質問を始めたの。
「聞きたいことは一つだけなんだけどね。これまでの訓練に関して、乃絵瑠ちゃんはどう考えているのかしら?」
…ん?
訓練に関して?
それって訓練の内容ってこと?
質問があいまい過ぎてよく分からないんだけど。
根本的な部分だし。
結構、重要な質問のような気がするかも?
…って言うか。
たぶんこれって、あれよね?
私自身の成長だったり、
私自身の自覚の問題なんじゃないかな?
何を考えて。
何を想い。
何を目指しているの?っていう話よね?
「ええ、そうよ。乃絵瑠ちゃんはどんな力を目指して、どうなりたいの?」
…ん~?
今更な感じもするけれど。
改めて聞かれると困ってしまうわ。
…どうなりたいのかな?
聞かれてもすぐには答えられなかったのよ。
何を目指して何を求めているのかなんて、
私自身も分かってないから。
…ただ漠然と強くなりたいって思ってただけだし。
どうしたいって聞かれてもね~?
特にはなかったわ。
…どうしよう?
「…ふんふん。」
何も答えられないことで、
美咲さんは私の迷いや戸惑いを読み取ってくれたみたい。
「なるほどね~。まだ何も考えてないのね。」
…あぅ。
あっさりと考えを読まれてしまったせいで言葉をなくしてしまったわ。
実際にそうだから何も言い返せないんだけど。
はっきり言われると落ち込んじゃうわよね?
それなのに。
美咲さんは笑顔で告げてくるのよ。
「まあ、そうだろうと思っていたから最初から返事は期待してなかったんだけどね♪」
…へ?
何それ?
だったら聞かなくて良かったんじゃない?
…って言うか。
分かってるなら聞かないで欲しかったわ。
「あらあら?怒っちゃった?」
「い、いえ…そんな…。」
別に起こるほどじゃないけれど。
落ち込みはするかな?
「ふふっ♪大丈夫よ、乃絵瑠ちゃん♪」
…何が?
どう大丈夫なの?
「だ・か・ら〜♪♪」
明るい笑顔で私の心をえぐってくれる美咲さんは、
今日も私の体を抱きしめながら耳元で優しく語りかけてきたわ。
「私が手取り足取り、きっちり指導してあげるから♪全部、私に託しなさいっ♪」
…うわっ!?
耳元で語りかける美咲さんの吐息を感じた瞬間にね。
久々に全身を震えさせてしまったのよ。
…怖いって言うか、恐い?
恐怖と不安が染み付いた私の体は、
美咲さんへの服従心で支配されつつあるのかもしれないわ。
…うぅ〜〜〜。
毎日のこととは言え、
全然慣れる気がしないのよね〜。
毎日が恐怖と不安の連続なのよ。
それでも美咲さんに対する信頼は確かで、
今のところ不満や疑問はない…はず。
…それでも怖いものは怖いんだけどね〜。
いつか本気で美咲さんに襲われるんじゃないかなって思う恐怖が一日中付き纏っているからよ。
そんな恐怖を感じて怯える私を抱きしめたまま、
美咲さんは耳元で囁き続けてくるの。
「大丈夫よ♪安心して私に任せなさい♪」
…ぁぅ、ぅ。
美咲さんから漂う甘い香りと心地好すぎる柔らかな声が私の恐怖を膨らませていく。
…ぅぅ〜〜〜〜。
負けそうかも。
あまりにも怖すぎて、
美咲さんの甘い誘惑に心が折れそうになっているのよ。
その間にも美咲さんは甘く優しく語り続けてくるんだけどね。
「私が成長させてあげるわね♪」
…ぬぁぁぁ!?
「心も、身体も、乃絵瑠ちゃんの『全て』を、私が成長させてあげるわ♪」
…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
全身を駆け抜ける悪寒が止まらない。
そのせいで動きを止めてしまった私に、
今度は訓練の内容を囁いてきたのよ。




