だけど僕は
《サイド:御堂龍馬》
…どうやら上矢さんも何かを経験したようだね。
それが何なのか?
僕はまだ何も知らないけれど。
きっと僕と同じように大切な人を失う悲しみを知ってしまったんじゃないかな。
「あなたは強いのね…。どんなに苦しくても、どんなに辛くても、笑顔を浮かべられるあなたはとても素晴らしいと思うわ。」
…いや、それはどうかな?
僕だって泣きたくなる時はあるし。
立ち止まってしまう時もある。
だけどね。
それでもね。
前に進むしかなかったんだ。
何もしなければ本当に全てを失ってしまうから。
何もしなければ本当に大切なものを見失ってしまうから。
苦しみを我慢して絶望を乗り越えるしかなかったんだよ。
「ねえ、あなたは泣きたいとは思わないの?」
…っ!?
上矢さんの一言が僕の心に突き刺さる。
「ねえ、あなたは逃げ出したいとは思わないの?」
…僕、は?
これまで抑えていた感情が。
目を逸らしていた感情が。
心に蘇りかける。
…ダメだっ!
まだダメだっ!!
溢れる感情を必死に押さえ込む。
そんな僕に上矢さんは問い続けてくる。
「ねえ…あなたはどれほどの絶望を背負っているの?」
…くっ!!
問いかけられるたびに揺れ動く心。
壊れそうになる心を守るために必死に押さえ込んでいたはずの感情が表情に表れようとしていた。
…ダメだっ!
僕は決めたんだ!!
…もう泣かないって!
もう絶望はしないって決めたんだっ!!
今ここで心をさらけ出してしまえば前に進めなくなってしまう。
もしも感情を表してしまったら、
僕はまた歩みを止めてしまうから。
…だから僕はもう泣かないって決めたんだっ!
理性で感情を押さえ込む。
そうして悲しみを忘れようとしてみるけれど。
それでも上矢さんは問い続けてきた。
「きっと…。きっとあなたの絶望は大きすぎて、誰にも理解できないのかもしれないわね…。」
………。
「だけど…。だけどきっと、みんなあなたを理解したいと考えているはずよ。」
………。
「少なくとも私は願っているわ。この悲しみを誰かに理解してほしいと思うから…。」
上矢さんは心に抱える苦しみと悲しみを誰かに救ってほしいと願っているようだ。
「私もね。親友を失ったの。」
「…今回の戦いでかい?」
「ええ、そうよ。私のために、美和子が命を懸けて守ってくれたの。」
…笹倉さんか。
そう言えばこの場にはいないようだ。
「あの時の絶望と悲しみは今でも忘れられないわ。自分の命よりも私の生存を願ってくれた美和子の想いを忘れることが出来ないのよ。」
…ああ、それならわかるよ。
僕も経験したからね。
たった一人の親友を守るために自分が犠牲になって死を受け入れる。
そうして亡くなった総魔の想いは、
今でも僕の心を捉えて離さないんだ。
だからきっと。
笹倉さんの死が上矢さんの心を苦しめているんだと思う。
「ねえ、御堂君。あなたはどれだけの大切な人を失ったの?それはきっと私とは比べものにならないくらいに多くて…私には想像も出来ない苦しみかもしれないけれど…だけどね。」
自然と溢れて流れる涙。
それでも上矢さんは涙を拭おうとはせずに、
必死に笑顔を見せてくれていた。
「悲しい想いを一人で抱えないで…。きっとあなたを理解してくれる人はいるはずだから…。」
…そう、なのかな?
「その人はきっとあなたの傍にもいるはずよ。」
…だと、良いな。
「だから一人で抱え込まないで、辛い時には辛いと言ってあげて…。そして悲しい時には涙を見せてあげて…。」
………。
「それがきっと、あなたの救いになるはずだから…。だから…ね。」
溢れる涙と込み上げる感情。
それほどの辛い想いを僕に伝えてくれたんだ。
「苦しい時には周りに助けを求めても良いはずよ。」
…本当に、良いのかな?
「みんながあなたを必要としているように、あなたも誰かに頼るべきだと思うの。」
…だけど僕は。
「何もかも一人で抱えて生きるのは辛いことだと思うから。一人で全てを背負って生きていくのはとても悲しいことだと思うから…。だから、一人で抱え込まないで。」
………。
上矢さんの言葉に、
僕の心は揺さぶられていた。
だけどそれでも。
それでも僕は、
僕の心を押さえ込んでしまうんだ。
…上矢さんの気持ちは分かるよ。
だけど。
…それでも僕は決めたんだ。
もう泣かないって。
…僕はもう泣かないって決めたんだ。
大切な仲間の死を悔やむんじゃなくて、
想いを受け継いで生きていくこと選んだから。
だから僕は絶望に染まりそうな心を理性で押さえ込むことにした。
…僕は泣かないよ。
少なくとも僕が僕の役目を終えるまでは。
…僕の意志を貫き通すんだ。
戦争を終わらせて共和国に平和が訪れるまで進み続けると決めたんだ。
…だから今は前に進むしかないんだ。
それが僕の役目だから。
悲しみや絶望から目を逸らして未来だけを見据える。
そうして僕は僕の意志を貫き通す。
…弱音は吐かないって決めたんだよ。
再び感情を押さえ込むことで、
上矢さんの言葉によって揺らぎつつあった感情が心の奥底へと沈んでいく。
悲しみも苦しみも、
全てが感情と共に消えていく。
「僕なら大丈夫だよ。」
想いを受け継いで共和国を守り抜く。
そのために僕は僕に誓ったんだ。
「亡くなった仲間達の想いを受け継いで生きていくって決めたからね。」
心を隠して微笑みを浮かべてみせる。
…だから、かな?
僕の笑顔を見た上矢さんは、
涙を流しながら俯いてしまったんだ。




