頭の中まで
《サイド:長野淳弥》
…どうやら終わったようだな。
米倉宗一郎との会話を終えた御堂が、
常盤成美と栗原薫の傍に戻っていった。
二人が何を話していたのかは俺にも聞き取れなかったが、
おそらくは千里の瞳が関わる情報をやり取りしてたんだろう。
その内容が何だったのかが気になるが、
さすがに直接聞き出すのは難しい。
すでに俺の立場は明るみに出てしまっているが、
だからと言って話を聞かせてもらえるかどうかは別問題だからな。
今は大人しく様子を見ておいたほうが無難だろう。
それに二人の表情を見ていれば良い話か悪い話かくらいは分かる。
おそらくだが、
それなりに価値のある情報のやり取りが出来たはずだ。
米倉宗一郎の笑顔を見れば良い報告だったのは間違いない。
だとすれば、無理に聞き出さなくても問題はない。
…わざわざ自分から面倒ごとを増やす必要はないからな。
とりあえずは再会の挨拶だけ済ませておけばいいだろう。
ひとまず二人の会話の内容は気にしないことにして、
ようやく合流できた御堂に声をかけておくことにした。
「よう、御堂。」
「やあ、淳弥。」
笑顔を浮かべながら御堂に歩み寄ってみると、
御堂も笑顔を返してくれた。
「こうして話をするのは久し振りだね。なかなか時間が取れずにここまで来たけど、きみも無事なようで安心したよ。」
…ははっ。
まあ、無事と言って良いかどうかは色々と疑問があるけどな。
「とりあえず生きてるのは間違いない。」
里沙からの虐めや姉貴からの嫌がらせのせいで、
あまり…というよりも全く良い思い出がないが。
それでもここまで堪え凌いで来れたのは事実だ。
「結構、色々とあったんだけどな。」
深い想いを込めて呟いてみると。
不意に里沙が百花と一緒に歩み寄ってきた。
「…ったく~。相変わらず辛気臭いわね。」
「頭の中までジメジメにカビてるんじゃない?」
…おいおい。
復帰早々で言う言葉がそれか?
瀕死の重態から復帰したばかりにも関わらず、
強気な態度で俺を見下す里沙の性格は結局変わらないらしい。
むしろあまりにも変わらなさ過ぎて、
竜道寺との戦いで見せた里沙の活躍が幻覚のように思えるほどだ。
「もっとしっかりしないと御堂君に置いてかれるわよ?」
…はあ。
里沙の態度もどうかと思うんだが、
下手に反論するとあとが面倒だからな。
無視しない程度に返事だけはしておく必要がある。
「お前も変わらないな…。」
竜道寺との戦いのおかげで、
ちょっとは大人しくなることを期待していたんだがな。
優しくなるどころか、
より一層『厳しさ』を増しているように感じてしまう。
「…ったく。マジで姉貴が傍にいるみたいだな。」
「え?」
不満を込めて呟いてみた言葉が気になったのか。
御堂が問い掛けてきた。
「姉貴って…淳弥にはお姉さんがいたのかい?」
…ん?
ああ、そう言えばそうだったな。
まだ御堂は知らないはずだ。
…なら、御堂にも説明しておくか。
今更隠すような情報でもないからな。
改めて自己紹介をしておくことにするか。
「御堂はまだ何も知らないんだったな。今はもう隠す必要がないから全て話すが、俺の本名は竜谷淳弥だ。」
「え?竜谷?長野じゃないのかい?」
「ああ、まあな。かつては俺も竜の牙の幹部の一人だったんだよ。」
「えぇっ!?」
…まあ、驚くよな。
「でも今は姉貴共々、竜の牙の敵対者として活動してる立場だ。」
「竜の牙と敵対?」
「ああ、そうだ。で、俺の姉貴っていうのが、御堂達も知っているウィッチクイーンになる。」
「なっ!?淳弥と彼女は姉弟だったのか!?」
…うーん。
これはあれだな。
ここまで素直に驚いてくれると俺も話し甲斐があるな。
もちろん米倉宗一郎や里沙達も驚いてはいたが、
それ以上に警戒心も持っていたようだからな。
御堂のように悪意がないやつは話しやすくて助かる。
「…そうか。だから淳弥はあまり目立たないようにしていたんだね。」
必要以上に成績を上げなかったこと。
そして御堂達を陰で支える裏方に徹していたこと。
それらの理由を察してくれたようだ。
「まあ、色々あってな。」
苦笑しながら説明を続けることにした。
「一応、俺はジェノスに潜入していた密偵だったわけだ。それでも今は姿を隠す必要がなくなったからみんな知ってる話だけどな。」
…まあ、もののついでだ。
反乱軍の存在と俺の立場も説明しておくか。
「竜崎慶太が率いる反乱軍に俺も姉貴も参加している。これはまあ、竜の牙を潰すためだけに作られた組織だと思ってくれればそれでいい。」
組織に関してはそれほど重要じゃないからな。
御堂に接近してもう一つの情報を耳打ちしておく。
「そして俺は米倉宗一郎が隠し持っている秘宝を竜の牙に奪われないために派遣された密偵だったっていうわけだ。」
「…あ、ああ、なるほど。」
「ついでに言うと、常盤成美が持っている秘宝は俺達が所持していたモノになる。」
反乱軍が管理していた秘宝は常に姉貴の手元にあって、
これまで手放したことは一度もなかった。
「どうして常磐成美に預けたのかは俺も知らないが、姉貴や竜崎慶太には何らかの目的があるんだろうな。」
秘宝を常盤成美に託した理由は俺も知らない。
それでも何らかの意味があるはずだとは考えている。
「まあ、そのうち分かるだろ。」
耳打ちは止めて御堂から距離をとった。
「まあ、ひとまず細かい話はおいておくとして、無事に合流出来たんだ。今はそれで良いんじゃないか?」
場を和ませるために気楽に告げてみたんだが。
それさえ気に入らなかったのか、
里沙が冷たい視線を向けてきた。




