喧嘩はしないように
《サイド:長野紗耶香》
…はあ。
まさか兵器がまだ存在してるなんてね。
あれがどれくらい危険なものかなんて、
今更考えるまでもないわ。
…実際にこの目で確認したからよ。
単発での発動は秘宝を通してだけど。
アストリア王国を消失させた大破壊は直接この目で確認しているの。
だからこそ言えるんだけど。
…もしも兵器が発動してしまったら、止める手段はないでしょうね。
私が大破壊を食い止められたのは秘宝の力があったことと、
事前に部隊を配備していたからよ。
それでも巻き込まれるのを回避しただけで、
兵器の攻撃そのものを止められたわけじゃないわ。
あくまでも食い止めただけなのよ。
あれはもうどう足掻いても防げるようなものじゃないの。
…それに今はもう秘宝すら持ってないしね。
いつ来るか分からない攻撃に対応するなんて出来るわけがないし、
仮に攻撃の予兆に気付けたとしても対策をとれる時間があるかどうかは疑問でしかないわ。
…兵器はもうないと思っていたのに、ここにきてまた兵器で悩むなんて。
こうなったら秘宝を返してもらうべきかしら?
…でも、ね〜。
それはそれで困ったことになると思うのよ。
…常磐成美の安全も優先しておかないと、あとが面倒なのよね〜。
それに栗原薫を生存させるためにも、
常磐成美と砦の少女の繋がりを残しておく必要があるわ。
そうなると秘宝の回収は無理でしょうね。
…はあ。
本当に面倒なことになったわね。
こうなったら常磐成美と合流して、
秘宝の力で兵器のありかだけでも調査したいところだけど。
…こっちはこっちで仕事が山済みなのよね~?
「報告は以上か?」
「はい。」
問い掛ける進藤輝彦に前園奏はしっかりと頷いていたわ。
「米倉様から頼まれた伝言は以上になります。」
「俺達への指示はないのだな?」
「あ、はい。特には何も…。これからどうするかは進藤様と竜崎様に任せるとのことでした。」
ミッドガルムへの進軍という指示は存在しないようね。
進軍してはいけないという指示もないわけだけど。
これからどうするかは自分達で判断しろということよ。
「ならば、こちらは待機で良いということか。」
進藤輝彦は無理な突撃は必要ないと判断したようね。
「ふむ…。どうするべきか…。」
ミッドガルム軍を撃破してからの合流か?
あるいはミッドガルム軍の足止めの継続か?
今後の方針を考える進藤輝彦に前園奏が再び報告を始めたわ。
「…それと、桜井由美様からも一つだけ伝言を承っています。」
「ほう、何と言っていた?」
「桜井由美様からは『カリーナの生徒が合流するように手配してあるので、こちらで彼女達を受け入れてほしい』とのことでした。」
…へえ。
カリーナの生徒ということは例の子達よね?
「それってもしかして…私に襲い掛かってきた子達のこと?」
「どうなのでしょうか?私は詳しい事情を知りませんが、桜井由美様は笑いながら『喧嘩はしないように』と言っていました。」
「ああ、なるほどね。」
…やっぱりそうなのね。
伝言の内容から援軍の正体に気付いたわ。
もちろんカリーナの生徒と言えば、
他に考えられる生徒なんていないけどね。
「それじゃあ、あの子達が来るのね。」
カリーナ女学園の生徒達。
以前の彼女達の実力は私には遠く及ばなかったけれど。
今もそうだとは言い切れないわ。
…ちゃんと成長してるなら頼もしい援軍ね。
素直にそう思えるのよ。
今はまだ彼女達の名前すら知らないけれど。
それでも実力は知ってるつもりよ。
「あれからどんな成長を果たしたのか興味はあるわ。」
たった数日で大きく変わるとは考えにくいけれど。
決して有り得ないことではないのよ。
特に私に敵対の意志を見せていた強気な少女と、
最後まで取り残された少女。
二人の成長は楽しみに感じてしまうの。
「だとすると、ミッドガルムへの突撃は彼女達の合流を待ってからのほうが良いかも知れないわね。」
「…ああ、そうだね。」
彼女達の合流を楽しみに待つ私の気持ちを察してくれたのか、
慶太が今後の方針を決定してくれたのよ。
「もうしばらくの間は待機を続けよう。ミッドガルムの動き次第でもあるけれど、出来る限り時間を稼いで援軍の到着を待つことにしよう。」
私の期待を信じて。
カリーナの生徒達の成長を信じて。
慶太は待機を選んだのよ。
「兵器の存在は気になるけれど、ここにはミッドガルム軍も布陣しているんだ。味方を巻き込んでまで兵器による攻撃はしないと信じて待機を続けようか。」
ここでミッドガルム軍を足止めしている限り、
直接的に共和国が襲われる心配はないはず。
兵器による狙撃で町が狙われる可能性はあるけれど。
それはもうどうしようもないわ。
「今は共和国の町がまだ存続していると信じるしかない。」
ここからでは分からない国内の状況。
それでもセルビナの王都が攻撃を受けた以上、
次の目標が共和国に向くのは時間の問題でしょうね。
「こうなると最も危険な町はグランバニアだろうな。」
進藤輝彦は共和国の中心に位置して陸軍の基地やグランパレス等の大規模な施設が存在する
首都グランバニアが最も危険だと考えているようね。
「…あるいは医療を担うマールグリナか、海軍の本部があるジェノスという可能性も考えられるか。」
「一刻も早く兵器を破壊する為に、突撃を急ぐべきではないか?」
それらの町が狙われる可能性を考慮する進藤輝彦に北条辰雄が話し掛けていたわ。
ミッドガルム軍を撃破して進軍するべきだと考えているようだけど。
それはそれで問題はあると思うのよね。
「確かにそれも一つの選択肢だろう。だが、突撃を行えばこちらの被害は計り知れない。」
…そう。
そこが問題なのよ。
3万強の共和国軍と9万弱のミッドガルム軍。
互いの戦力差を考えれば、
無理な突撃は共和国軍の全滅に繋がりかねないの。
「ミッドガルム軍が布陣したまま動かないのは戦わずとも共和国を落とせると考えているからだろう。」
要するに兵器による狙撃で共和国は滅ぼせるということよ。
だからこそミッドガルム軍は共和国軍を足止めしてるんでしょうね。
「ミッドガルム国内に共和国軍を進軍させない為の布陣だと考えるべきだ。おそらく向こうは必死の防衛を行うだろう。その防衛網を突破するのは容易ではない。」
いくら慶太が強くても。
いくら私が強くても。
9万の軍隊を突破するのは不可能よ。
雪や近藤悠輝や進藤輝彦や北条辰雄等の優秀な戦力が揃っているとはいえ、
それでも大規模な被害は避けられないでしょうね。
「仮に突撃を行うにしても、戦力の強化は必要になる。」
カリーナの生徒の実力は不明だけど。
それでもいないよりはいたほうが良いということよ。
「町が心配という気持ちは十分に分かる。だがここで無理をして部隊を壊滅させては意味がない。例えミッドガルム軍を殲滅することに成功したとしても、その直後に兵器による攻撃を受ければ、こちらの全滅は確定するのだからな。この地にミッドガルム軍が布陣しているからこそ俺達は兵器の恐怖から逃れることが出来ているのだ。そこを忘れてはならない。」
…ええ、そうね。
ミッドガルム軍が布陣しているからこそ、
この地が兵器による攻撃を受けることはないの。
だけどもしもここでミッドガルム軍を殲滅して共和国軍だけになれば兵器による攻撃が行われるかもしれないわ。
「ミッドガルム軍の存在は共和国軍にとって足枷でもあり盾でもあるのだ。」
ミッドガルムに進む為の障害でもあるけれど、
共和国軍が兵器による攻撃を受けないための盾でもあるから。
「今は確実にミッドガルム軍を殲滅できる準備を整えることが最優先だ。」
「………。」
今でもまだジェノスの町への不安は消えない様子だけど。
それでも進藤輝彦の言葉を否定することはなかったわ。
「…今は堪えるしかないか。」
自分自身に言い聞かせる北条辰雄も待機を選んだようね。




