安否は不明
《サイド:竜崎慶太》
まもなく午前4時を迎えようとしている頃。
ミッドガルム軍と対峙し続ける僕達の下に、
米倉さんが派遣した伝令部隊が駆け付けた。
「失礼します。」
礼儀正しく一礼してくれた彼女の名前は前園奏さんだ。
彼女は米倉さんの指示を受けて、
カルナック山脈の西部からわざわざ東部に布陣する僕達に会いに来てくれたようだね。
「お忙しいところ申し訳ありませんが、米倉様から伝言を預かっています。」
「大丈夫だよ。今はまだそれほど忙しくはないからね。それよりも向こうで何かあったのかい?」
「あ、いえ…。今のところは特に問題はないのですが、報告を3つお伝えするように指示を受けています。」
…へえ。
3つもあるのか。
「それは良い報告かな?」
「はい。それもあります。」
…それも、か。
ということは悪い報告もあるということだ。
「聞かせてもらうよ。」
「ありがとうございます。それではまず一つ目ですが、セルビナ王国が落ちました。」
…良し!!
わざわざ伝令を送ってきた以上、
この報告はあるだろうと思っていただけに素直に喜んでしまう。
「ついにセルビナが落ちたのか。」
「なかなかの手際ね〜。」
「すごいです!」
報告を聞いて笑顔を浮かべる僕のすぐ傍では、
紗耶香と雪も喜んでいる様子だった。
ここはまだいつ戦闘が起きてもおかしくはないほど緊迫した状況だけれど。
それでも喜ぶべき報告を聞いたことで、
今まで黙って話を聞いていた北条さんが前園さんに問い掛けていた。
「報告の途中で申し訳ないが、多国籍軍はどうなっている?鞍馬信彦は無事なのか?」
「それは…っ。」
直属の部下である鞍馬信彦さんの生存を心配する北条さんに、
前園さんは複雑な表情を見せていた。
「鞍馬信彦様は…ご無事です。ですが、多国籍軍の安否は不明です。」
「…それはどういう意味だ?」
「それが報告の二つ目になります。」
疑問を感じて声が低くなる北条さんに、
前園さんは気持ちを切り替えてから報告を再開してくれたんだ。
「セルビナの王都において、アストリア王国が使用していた兵器と同様の攻撃を確認しました。」
「なんだとっ!?」
…そんな馬鹿なっ!?
予想外の報告に驚きを隠せない北条さんと同様に、
僕も戸惑いを感じながら前園さんに問い掛けることにした。
「兵器がまだ残存するのか!?」
「…どうやらそのようです。御堂龍馬様の経験によって兵器の実在に間違いはないとの判断でした。そして兵器の攻撃によってセルビナの王都は壊滅した模様です。そのため、王都に布陣していた多国籍軍の消息は不明となりました。」
「調査部隊は?」
「もちろん送っています。ですが調査が終わって部隊が帰還するまでに数日はかかると思われます。」
…だろうね。
もしも本当に兵器が発動していたのなら調査も難航するはずだ。
単に王都の状況を見るだけなら一日でも出来るだろうけれど。
目的が人命救助となればすぐには終わらない。
「王都の様子に関しては調査部隊の帰還待ちになります。」
オルバ・レグリックとリン・ラディッシュが率いていた多国籍軍の生死は不明。
その報告を聞いた北条さんは悔しげな表情で拳を強く握り締めていた。
「くそっ!兵器が残存するだとっ!?一体どの国からの攻撃だ!!」
「…落ち着け北条。」
苛立ちを抑えきれずに叫ぶ北条さんを見て、
後方で話を聞いていた進藤さんが話し掛けていた。
「ここで歎いていても何も変わりはしない。それよりも今はこれからどうするかを考えるべきだ。」
冷静な口調で説得してから、
進藤さんは前園さんに問い掛けている。
「前園副隊長。宗一郎からの最後の報告は何だ?」
「あ、はい。」
落ち着いた雰囲気で問い掛ける進藤輝彦に、
前園さんは最後の報告を伝えてくれた。
「三つ目の報告ですが、共和国軍は兵器を所持していると思われるミッドガルムへ進軍するという決断になりました。」
「ほう。宗一郎は兵器がミッドガルムにあると判断したのだな?」
「はい、そうなります。セルビナ王国に対して堂々と攻撃を行ったことから、イーファやカーウェンではなく、ミッドガルムが最も疑わしいという結論になりました。」
「なるほど…。確かにそれが最も自然な考えだろうな。」
戦争を肯定する軍事国家だからこそ。
その矛先が共和国だけではなくて、
周辺諸国全てに向けられているからだ。
「弱ったセルビナ王国を滅ぼして領土を略奪する腹積もりかもしれんな。」
その考えが最も自然なのは僕達にも理解できた。




