陥落情報
《サイド:米倉宗一郎》
…ふう。
「こうしていると、ここが戦場だということを忘れてしまいそうだな。」
あまりにも静かなのだ。
現在、俺達はミッドガルムとセルビナを繋ぐ国境にある砦に布陣しているのだが、
今だに多くの者達が倒れている現状のために長野君と共に砦の警備を行っているところになる。
そして各地に転がる遺体の処分を行いながら由美の部隊の帰還を待っているのだが、
ミッドガルム軍が撤退して竜の牙も逃走したことによって砦の周辺は静か過ぎるほど静かで平穏な時間が流れていた。
もちろん再び竜の牙が襲い掛かって来る可能性は否定できないがな。
…とは言え。
その可能性は低いと考えている。
…奇襲に失敗した以上、再び準備が整うまでは姿を隠すだろう。
竜道寺という男の性格を考慮すれば運を頼りにした戦い方はしないはずだ。
…認めたくはないが、頭の良い男だからな。
力ずくで戦うような浅はかな行動はとらないはず。
例え俺達がボロボロの状態であっても、
確実に勝てる見込がなければ動かない男だ。
…単に夜まで待つつもりかもしれないが。
今でも月は見えているが、
襲い掛かって来る気配はない。
…あるいは動けない事情でも出来たか?
何らかの事情によって動けないのかもしれない。
そんなふうに考え事をしていると楠木博文の伝令部隊が駆け寄ってきた。
「緊急の知らせですっ!!」
「どうした?」
慌てた様子で駆け寄る伝令部隊に振り向いてみると大急ぎで報告を始めてくれた。
「セルビナが落ちました!!」
…なっ!?
何だとっ!?
報告を聞いた瞬間に自然と笑顔を浮かべてしまう。
「ついに落ちたか!!」
セルビナ魔術師ギルドの諜報員が動き回って楠木博文の部隊と合流したのだろう。
その後で楠木博文が送ってくれた伝令部隊が俺の下にたどり着いたということだ。
もちろんその間に僅かに時間差が発生してはいるが、
ついに求めていた情報を手に入れることができた。
「黒柳達の状況はどうなっている!?」
セルビナの状況が全く分からない。
黒柳達は無事に生存しているのか?
御堂君は?
常盤成美は?
そして千里の瞳は?
幾つもの疑問を考える俺に伝令部隊は笑顔で報告を続けてくれた。
「海軍はほぼ全軍が生存しているようです。」
…ほう。
被害を最小限にとどめたのか。
素晴らしい活躍じゃないか。
「あくまでも『ほぼ』ですので、一部の海兵はセルビナ軍の攻撃を受けて死亡したようですが、黒柳様を含め、ジェノスの生徒達も無事のようでした。」
「そうか。」
…御堂君達は無事なのか。
喜ぶべき報告を聞いてほっと息を吐く。
そんな俺の隣では長野君も笑顔を浮かべているように見えた。
「ひとまずは安心ですね。」
「ああ、そうだな。」
御堂君が生きている。
…だとすれば。
常盤成美君も無事だろう。
…秘宝も無事のはず。
御堂君と共に行動しているはずの常盤成美君が持つ秘宝はまだ手の内にあるはずだ。
「ひとまずセルビナが落ちたことは喜ぶべき報告だな。」
全員の無事を知り、
秘宝の無事を信じる俺の視線の先で伝令部隊が報告を続けていく。
「セルビナは完全に降伏を認めました。それに伴い、セルビナは共和国の属国を認めたようです。」
…ほう。
そうかそうか。
「セルビナは完全に屈したか。」
制圧が完了しても小競り合いは続くだろうと考えていただけに、
セルビナの全面降伏は予想外の展開でもあった。
「これで3国同盟に一歩近付いたわけだな。」
新たな国を作る為の最初の一歩。
セルビナの制圧が完了したことになる。
「次はミッドガルムの制圧か。」
まだまだ油断できない戦力だ。
ミッドガルムの軍事力は決して侮ることが出来ない。
…だとすれば、だ。
一つの可能性を思い付く。
…竜道寺が襲って来ないのはセルビナが落ちた事実を知ったからかもしれんな。
セルビナが落ちたために王都に進軍していた戦力がこちらに来る可能性があるのだ。
そうなれば共和国軍の戦力は増加して、
竜の牙は前後を共和国軍に挟まれることになる。
…その辺りの危険性を考慮して撤退したのかもしれないな。
今のところそれ以外の可能性が思い浮かばないからな。
おそらくはそういうことだろう。
ここから王都まではそれほど遠くはない。
もちろん数時間はかかるが、
急げば4時間ほどで辿り着ける距離だ。
…そうは言っても。
セルビナとの交渉によってはすぐには動けないだろうがな。
とは言え。
遅くとも日付が変わるまでには到着できるだろうと考えている。
…やはり今は待つしかないか。
由美の部隊の帰還と大悟の部隊の合流。
二つの部隊の到着を期待しつつ、
過ぎていく時間を大人しく待ち続けることにした。




