粛正よりも謝罪
「良いだろう。王族の処遇に関してはそちらに一任する。だが可能ならば処刑は最小限に留めてほしい。いかに戦犯者であろうとも一つの命であることに変わりはないからな。」
粛正よりも謝罪を求める。
それが共和国の方針だ。
だからこそ王族を皆殺しにして全てを終わらせるよりも、
謝罪を求めることでより良い国造りを目指す方針を優先させたいと願っていた。
「真に国を想う人物がいるのならば、殺さずに協力を求めてほしい。」
黒柳所長は自らの利益よりも国を想う人物がいるのなら、
その人は許してあげてほしいと願っていた。
「生存こそが和平への第一歩だからな。」
憎しみも悲しみも乗り越えて共に手を取り合いながら生きていくことが理想への第一歩だと思っている。
「共和国とセルビナ王国が共存の道を進めるように協力してほしい。今はただそれだけを願っている。」
具体的な方針までは決められないけれど。
両国の未来の為に協力し合うことを望んでいるんだ。
…そうして。
黒柳所長は広場に集まった全ての人々に問い掛け始めた。
「今、ここに集まっている全ての人々に聞いてほしいっ!!」
精一杯の大声で共和国の想いを訴えた。
「共和国は戦争を望んではいない!力による制圧や支配を望んでいるわけではないのだっ!だからこそ俺達は全ての人々の生存を願っている!共和国だけではなく、セルビナの国民の命も同様なのだからな!」
一人に一つしかない命。
その命を守りたいと願ってる。
「俺達は殺し合いなど求めてはいない!だからこの場に集まる全ての人々に問い掛けたい!!戦争の必要性を!そしてその意味を!!何故戦う必要があるのかを!!」
本当に戦う必要があったのか?
本当に敵対する必要があったのか?
その真偽を問い掛けたんだ。
「世界には魔術師への恐怖が蔓延しているかもしれない!だが俺達は争う意志など持たない集まりなのだ!」
共和国は争いを避けるために集まった人達によって作られた魔術師にとっての最後の希望だから。
「共和国は魔術師狩りという絶望から逃れた魔術師達による最後の安息の地でしかない!!」
生き場をなくした魔術師達が最後の拠り所として集まる地。
それがファンテリナ魔導共和国。
本来の生まれた故郷で大切な幸せを失った魔術師が、
悲しみと絶望を背負いながらも懸命に生きようと願って生まれた最後の聖地であり。
魔術師狩りという争いから逃れて共和国に集まった者達にとって、
争いは何よりも避けるべき出来事でもある。
だからこそ共和国の人々は平凡で幸せな日々を望んでいるんだ。
「決して争いを起こすために集まっているわけではないのだ!」
全てを奪われて全てを失った人達にとっては復讐や憎しみという負の感情が存在することを否定出来ないけれど。
それでも争いを避けたいと願っていることに変わりはない。
「魔術師は存在そのものが悪なのではない!確かに俺達の中にも善悪は存在する!だがそれはどの国も同じはずだ!セルビナ王国にしても!陰陽師という能力者にしても!集団の中には必ず善悪が存在するはずなのだからな!!」
魔術師だけが悪いわけじゃない。
善悪という価値観は不公平なくらいに平等で、
あらゆる場所や組織に存在しているから。
だからこそ。
共和国にもセルビナ王国にも、
世界中のどこにでも存在している。
その中で魔術師という存在だけが完全な悪という考え方そのものが異常だと思うんだ。
「もしもセルビナの国民にとって魔術師が悪であるのなら、共和国にとってはセルビナが悪と言えるだろう。互いに対立する限り善悪は解決出来ない問題なのだからな!だが、考え方を変えれば戦争は不要だったと理解出来るはずだ!」
武力による制圧なんて考えずに、
分かり合う努力さえしていれば戦争は起きなかった。
互いを認めて話し合えれば傷付け合う必要はなかったし。
誰も悲しい想いをしなくてすんだんだ。
「この戦争は本当に必要だったのか!?多くの犠牲を生み出して、互いに悲しみを募らせるだけの争いが本当に必要だったのか!?もっと別の道があったのではないか!?傷付け合わずに分かり合う方法があったのではないか!?」
両国の死者の数は数十万に及ぶと思う。
共和国の海軍や多国籍軍。
セルビナの陸軍や海軍。
そして陰陽師軍に到るまで。
あらゆる犠牲者が出た戦争。
その犠牲者の数は膨大で、
セルビナ王国に勝利した共和国でさえも絶望と悲しみだけが残る辛い戦いでしかなかった。
「争う必要などどこにもないのだ!!殺し合うことで辿り着く未来は絶望でしかないのだっ!!」
「「「「「………。」」」」」
必死に訴える黒柳所長に対して反論する人はいないようだ。
「この場に集まる全ての人々に俺は願う。争いを止めて共存の道を選んでほしい。ただそれだけを願っている。」
精一杯の想いを伝えた黒柳所長は再び野々村さんに振り返っていた。




