対魔術師用
「発動せよ!」
国王の宣告の直後に、
僕達の足元で大きな五紡の光が瞬く。
そして。
「え…っ!?」
「嘘…っ!?」
突然の出来事に戸惑う栗原さんと鈴置さん。
…くっ!?
しまった!!
僕も気付いた時にはすでに遅く、
僕と鈴置さんが手にしていたはずのルーンが消失してしまっていた。
…うっ、あぁぁ!?
頭が…痛いっ!
ルーンを失うと同時に軽い頭痛を感じてしまう。
「ぁ…ぅ…。気持ち悪い…っ。何なの…これ…?」
ほぼ同時に鈴置さんも体調を崩してしまったようで、
気持ち悪さを堪えきれずにその場にしゃがみ込んでしまっている。
「魔力が、乱れる…っ?」
「苦しい…です…ぅ…。」
戸惑う鈴置さんに続いて、
栗原さんと成美ちゃんも座り込んでしまっている。
そして呼吸さえも乱れるほどの精神的な苦痛によって冷静な判断力を失ってしまっていた。
「気持ち悪い…。」
「ダメ…。吐きそう…。」
「頭が…痛い…です…っ。」
…みんなっ!!
苦しむ3人の様子を眺めながらも懸命に状況を分析する。
…この影響と、この力。
これは、もしかして?
拘束結界『テンプテーション』と同じ効力を発揮しているとしか思えない。
…そういうことなのか?
総魔が考えて黒柳所長が研究を続けた魔術と同様の影響力。
僕自身はテンプテーションを受けたことがないけれど。
研究記録と実験内容程度は知っている。
…と言うよりも。
僕自身が拘束結界の実験台として研究所に協力していたからね。
だからこそ拘束結界の全てを知っているつもりだった。
…全く同じかどうかはわからないけれど。
似たような理論だろうね。
だとすれば僕には結界を相殺することが出来ないことになる。
補助系魔術を得意としない僕には結界を相殺する力がないからだ。
それに何より、
これが音による拘束かどうかが僕には分からなかった。
…魔力を撹乱する結界なのは間違いないはずだけど。
それだけで答えを導き出すのは難しい。
…いや、それ以前に。
もしも同じだとすれば拘束結界の影響下に入ってしまったあとではどうすることも出来ないはずだ。
せめて藤沢さんだけでも連れてくるべきだった
西園寺さんは眠りについたままだけど藤沢さんは動けるんだ。
敵の罠を想定するなら、
藤沢さんだけでも一緒に来てもらうべきだった。
…今更、後悔しても手遅れか。
この状況でどうするべきかを考えるべきだと思う。
…どうする!?
必死に考える僕達に再び国王が話しかけてきた。
「先に言っておくが、それはこれまでに捕らえた魔術師共を実験台にして完成させた『対魔術師用』の捕獲結界だ。結界の内部において貴様等が魔術を使用することは出来ん。」
…くっ。
やっぱりこれはテンプテーションと同種の結界なのか!
組み上げられた理論はともかくとして、
最終的な目的は同じようだ。
…だとすれば。
結界の内部にいる限り、
魔術を発動することは出来ないことになる。
思考能力が低下して魔力を乱された状況で魔術を展開することは不可能だ。
…もしかすると。
この結界で和泉さん達も捕らえられたのかもしれない。
…どうする!?
この状況を脱出する方法が何一つとして思い浮かばない。
魔術を封じられた僕達に出来ることは何もないからだ。
…こうなってしまたった以上、僕達の敗北だ。
徐々に迫り来る衛兵達に混ざって僅かな陰陽師達の姿が見える。
…国王の護衛と結界の発動の為の僅かな戦力が残っていたのか。
陰陽師が護衛についている可能性は有り得ると考えていたけれど。
まさか拘束結界があるとは思っていなかった。
…セルビナでも研究されていたなんて、想像もしてなかったよ。
魔術が使えなくなった僕達は急速に激しくなる頭痛に堪えるしかなくて、
すでに立ち上がる気力さえ残っていなかった。
…くっ!!
ここまで来て!
…ここまで来て失敗するのか!?
打つ手なし。
結界の周囲を衛兵達に取り囲まれ僕達は、
ついに脱出さえも封じられてしまったんだ。




