一瞬の油断が
《サイド:御堂龍馬》
…ふう。
ようやく3階か。
さすがに王城は広すぎて方向感覚を失ってしまいそうになる。
それでも幾度かの戦闘を乗り越えたことで、
ついに王城の3階までたどり着いたんだ。
…そろそろ謁見の間に近づけるんじゃないかな?
「どこまで続くんでしょうか?」
「たぶん、ここが最後じゃない?」
疑問を言葉にした成美ちゃんに栗原さんが答えていた。
…確かに、ここが目的地っぽいね。
階段を上がってすぐ目の前に一際大きな扉が存在しているからだ。
周囲に人の気配はなくて、
見える範囲には誰もいないように思える。
…どこかに潜んでいるのかな?
これまで何度も襲われていたのに、
肝心の部屋の前に誰もいないというのはおかしいからね。
…たぶん、どこかに潜んでいるんじゃないかな?
「この向こうが謁見の間って感じがしない?」
「あっ。不用意に近付くと…」
周囲に誰もいないことで扉に歩み寄る栗原さんを鈴置さんが呼び止めようとしていたけれど。
危ないと言い終えるよりも先に向こう側から扉が開かれてしまったんだ。
『ギィィィィィィ…ッ…。』と音を立てながら内側へと開かれる扉。
不意に開かれた扉に驚いた僕達が動きを止めている間に全開に開かれてしまう。
そして。
扉の向こう側には大勢の衛兵達が武器を構えて待機していたんだ。
…くっ!
まずいっ!!
「栗原さんっ!」
「成美ちゃんは下がってて!」
慌てて栗原さんの護衛に動き出した僕の後方では、
鈴置さんが成美ちゃんの守りについてくれたようだ。
成美ちゃんを背後に庇いながら謁見の間に視線を向ける鈴置さんは、
扉のすぐ側で栗原さんを守る僕に視線で合図を送りながら少しずつ後退している。
だけど鈴置さんが距離をとるよりも先に、
弓矢を構える衛兵達が狙いを定めてしまっていた。
「ちょっ?これは間に合わないかも…っ!」
下手に動こうとすれば、
結界の展開よりも先に矢が放たれてしまうはず。
…どうするっ!?
戸惑う鈴置さんを守る為に必死に思考を巡らせてみるけれど。
さすがに僕もこの状況を凌ぐ方法なんて思い付かない。
…遠すぎる。
全員が僕の周囲に居るのなら守ることは出来るけれど、
二カ所を同時に守るのはさすがに無理だ。
…栗原さんならどんな攻撃も凌げるかもしれないけれど。
だからと言って放置は出来ない。
扉から階段までは僅か10メートル程度の距離でしかない。
だけどその距離を詰める前に矢が届いてしまう。
…魔術は間に合わないっ。
ここで僕が一歩でも動けば衛兵達の矢が放たれると思う。
…ここまで来てっ!
最後の最後での油断。
周囲に誰もいないと思った油断が全員に危機をもたらしていた。
…こうなったら一撃で衛兵達を全滅させるしかないっ!
状況を打開するために密かにルーンに魔力を込める。
そして一撃必殺を目指して攻撃を仕掛けようとしたその直前で一人の男性の声が謁見の間に響き渡った。
「無駄な抵抗は止めて大人しくしろ!!」
心の奥底にまで響き渡るような威厳のある声。
その声の主が誰かなんて考えるまでもなかった。
…国王か。
謁見の間の奥にある玉座に振り返る。
そして国王と思われる人物を目にしたところで衛兵達に指示が出されてしまった。
「道を開けろ!侵入者を通せ!」
…え?
僕達を捕えないのか?
どういうつもりなのかが分からないけれど。
国王の指示に下がった衛兵達は弓を構えたままで道を開いてくれたんだ。
そのおかげで国王の姿がはっきりと見えるようになった。
…あの人が国王なのか。
周囲を警戒しながら国王を眺めていると。
「そのまま中に進め。」
向こうから声をかけられてしまった。
「だが変な気は起こすな。少しでも怪しい動きを見せれば即座に撃ち殺すからな。」
…どうする?
どう考えても逃げられそうにはない。
僕一人なら何となるとは思うし、
おそらく栗原さんも無傷で乗り切れるはずだ。
だけど鈴置さんと成美ちゃんは防御が間に合わないと思う。
…こうなったら、行くしかないか。
衛兵達に弓矢で狙いを付けさせたまま謁見の間へと招き入れる国王の指示に従って、
僕達はゆっくりと歩みを進めることにした。
「行こう。みんな…。」
場合によっては栗原さん以外の全員が死亡する可能性も考慮しながら室内を進んでいく。
…どうするべきだろうか?
ひとまず指示に従うとして4人で固まるべきだろうか?
上手く立ち回れば防御が間に合う可能性はあるはずだ。
あるいは和泉さん達が追い掛けてきてくれればまだ助かる可能性もある。
「ああ、そうそう。一応、言っておくが、お前達が下に残してきた者達ならばすでに制圧済みだ。今頃は地下の牢獄に閉じ込められている頃だろう。」
…なっ!?
和泉さん達が捕まった!?
予想外の出来事に戸惑ってしまった一瞬の油断が、
さらなる危機を招いてしまうことになった。




