本宮源吾
…やはり内部に潜んでいたか。
どの程度の戦力を確保しているのかは分からないが、
陰陽師軍は予想通り王城の内部に控えていたらしい。
…だが、この状況で姿を見せた真意までは分からないな。
「戦うつもりか?」
疑問を呟く俺の前方。
僅か500メートルほど先になる城門前において、
陰陽師軍は布陣を完成させたのだ。
「どう考えても防衛の構えだな。」
そもそも共和国軍の行く手を阻むつもりがなければ布陣する必要がない。
「やはり戦うのでしょうか?」
…だろうな。
さりげなく俺よりも半歩前に歩み出た御堂君が警戒を強めたことで陰陽師軍の中から一人の男性が歩み出てきた。
「始めまして…と言うべきかもしれませんね。」
落ち着いた雰囲気を感じさせる男性は40代後半くらいだろうか?
男はたった一人で俺と御堂君の前に歩み出てくる。
「私は陰陽師軍を束ねる本宮源吾と申します。」
…ふむ。
本宮か、聞いたことがないな。
それに向こうも初めましてと言っているのだ。
丁寧な態度で一礼する本宮源吾と向き合って、
俺達も一礼しておくことにしよう。
「俺は共和国海軍を指揮する黒柳大悟だ。そして隣にいるのが…」
「…存じております。」
俺の言葉を遮った本宮源吾は、
まっすぐに視線を向けることで御堂君の瞳を見つめていた。
「滅亡したアストリア王国において唯一の生存者であり、私達陰陽師軍を単独で打ち破った共和国の英雄でしたね。そしてオルトナの港において海軍を壊滅へと導いた共和国最強の魔術師でもあるようですが…。」
…共和国の英雄か。
その評価に異論はないが、
どうにも嫌味にしか聞こえないな。
「ですが、私達からすればセルビナ王国を滅亡させようとしている悪魔の子でしかありません。」
「………。」
憎しみを感じさせる評価を聞いた御堂君の表情がホンの僅かに悲しみの色を浮かべていたが、
本宮源吾は気にした様子もないまま言葉を続けていった。
「共和国にとっては英雄であっても、他国にとっては脅威でしかありません。」
自ら経験した敗北によって警戒心を拭い去れないのだろう。
ほぼ全戦力と言える陰陽師軍を率いて海戦に挑んだにも関わらず、
御堂君と常盤君の二人の手によって壊滅するというぶざまな敗北を曝してしまったのだ。
嫌味の一つも言いたくなるのは当然かもしれない。
「あなたの噂はすでにこの王都にまで届いています。御堂龍馬さん。あなたの力はまさしく人を越えた悪魔の力です。そして我々はあなたの力の前に屈するしかない宿命なのかも知れません。」
常識を遥かに越えた御堂君の力を恐れる本宮源吾だが、
同時にもう一つの評価も聞かせてくれた。
「ですが、あなた達魔術師の中には天使のごとき優しさを持った方がおられることも私達は知りました。」
…悪魔の次は天使か。
まあ、間違いなく栗原君のことだろうな。
命を賭けた戦場において全ての生存を願った栗原君の想いは、
しっかりと本宮源吾にも届いていたらしい。
「正直な気持ちを言えば今の私にはあなた達が理解出来ません。世界を統べる力を持っていながらも、力に反する行動をとっているあなた達の善悪が私には分からないのです。」
全てを滅ぼす力を持つ御堂君と全てを守る力を持つ栗原君。
そんな相反する力を掲げて戦場を勝ち抜いてきた共和国軍の思想と理念が理解出来ないようだ。
「あなた達が何を求めて、何を成そうとしているのか?それが私には分かりません。ですが、どんな目的があるにしても私達はこの国を守る為に戦うしかないのです。如何なる理由があろうとも私達は戦わなくてはならないのです。それが私達の役目なのですから。」
…役目か。
軍である以上は国を守護する立場にあるからな。
真に守るべきは民であり、
それぞれにかけがえのない命だとしても、
退くことの出来ない事情があるのだろう。
だからこそ本宮源吾は包み隠すようなことはせずに全てを打ち明けようとしてくれていた。




