一つの運命
…ふう。
アルバニア軍を率いてセルビナ王国への国境に向かう幻夜の後ろ姿を静かに見送ることにした。
…思わぬ援軍だな。
予想もしていなかった事態だったからだ。
一時はアルバニア王国との戦いも考慮していただけに幻夜の協力は心から喜ぶべき出来事だった。
…それに、だ。
御神唯という存在も気になる。
「今世の御神唯は魔術師として生まれたのか。」
俺が知る御神唯は陰陽師としての力を持っていた。
だが幻夜と共に行動する御神唯は、
魔術師として生まれたようだ。
「世代こそ違えども、アルバニア王国に及ぼす影響力はどちらも同じようだな。」
俺の視線の先では御神唯を含むアルバニア王国の魔術師達もアルバニア軍に合流してこの場から去ろうとしている。
…御神唯か。
一通りの治療を終えてから立ち去る少女を眺めながら、
自分の知る御神唯の姿を思い浮かべてみた。
…似ているのかもしれないな。
生まれてきた時代こそ違えども、
生まれ変わりと思えるほど良く似ているのは確かだ。
…これも一つの運命だろうか?
「不思議なことがあるものだな。」
常識では計り知れない現実。
これはただの偶然なのか?
それとも何らかの意志が起こした必然なのか?
それは俺にも分からない。
だが事実として御神唯は生まれて、
天城総司や天城総魔と同じ血を引いているのだ。
血族と言える関係とその名が持つ意味。
それらに想いを馳せていると。
今まで様子を見ていた長野君が歩み寄ってきた。
「戦争の規模が拡大してきましたね。」
…ああ、そうだな。
「確かに事態は悪化していると言えなくもないが、同時に希望も見えたのだ。共和国の目指す未来が単なる幻想ではなくて実現可能な理想になった。それだけでも大きな意義があるだろう。」
先の見えない未来に頭を悩ませる日々から解放されて、
実現可能な未来に想いを馳せることが出来るようになったのだ。
それだけでも大きな一歩だと考えている。
「アルバニア王国の協力は歓迎すべき出来事だ。」
一時的には各国に戦火が広がるが、
最終的には全てが上手くまとまるのだからな。
「国家再編成にはそれだけの大きな意義がある。」
「そうですね。ですが先程の少女…アルバニアの魔術師である彼女が自らの名を御神唯と名乗っていましたが、それはやはり…?」
…ああ。
もちろんそういうことだろうな。
淳弥の問い掛けを全て聞き終えるまでもなく頷いて肯定することにした。
「きみが思う通りだ。彼女は御神家の血を受け継ぐ人物だ。」
アルバニア王国において御神の名を持つ一族はただ一つしか存在しない。
「陰陽師の支配する国において御神の一族から魔術師が生まれたのだ。その事実を否定することが出来なかったのだろう。」
本来ならば魔術師というだけで殺されるべき存在なのだが、
御神の名を継ぐがゆえに生存を許されたのだろう。
そして生存を許された御神唯の想いがアルバニアの国王の心を動かしたのだ。
「…つまりはそういうことだ。」
多くは語らずに。
全てを語らずに会話を打ち切る。
「彼女に関して俺達が気にする必要はない。彼女には彼女の人生があるのだからな。それは俺達が口出しするべきことではない。」
これから御神唯がどんな人生を歩むのかを俺達が話し合う必要はない。
その判断を優先して彼女に関する話は打ち切ることにした。




