部隊の解放
「…どうだ、宗一郎。俺の計画に乗るか?それとも別の道を模索するか?」
国家再編成という大規模な計画に賛同するかどうか?
共和国の運命をかけた選択肢が迫られた。
…どうする?
幻夜の考えた計画に異論はない。
上手くいけば共和国に限らず大陸南部全土から戦争の脅威を取り払うことが出来るからだ。
3国同盟という計画は俺にとっても望むべき理想の形になる。
…特に共和国とアルバニア王国を執り成す第3の国という存在は大きな価値があるだろう。
両者が共存する国が実現できれば、
魔術師を恐れる人々も減少するはず。
そうなれば大陸南部をきっかけとして、
世界中から魔術師狩りの脅威を消し去ることも夢ではなくなるだろう。
共和国の国家としての独立と陰陽師との共存に異論はない。
魔術師の未来を考えるならば、
国家再編成は実現させるべきだ。
3国同盟の締結が実現できれば戦争は二度と起きないだろうからな。
「国家再編成の計画に賛同しよう。上手くミッドガルムを制圧できるかどうかは分からないが、出来る限りのことはしてみるつもりだ。」
ここで共和国がミッドガルムに敗れてしまうと全ての計画が水の泡となるのだが、
そうならないために全力で考えることにしよう。
セルビナに送った部隊をこちらに呼び寄せつつ、
カルナック山脈東部に布陣している反乱軍の部隊の協力も借りればこちらの戦力は相当な規模になるはずだからな。
陸軍と海軍。
そして多国籍軍と混合部隊。
さらには御堂君達などの主力とも言える戦力を全てミッドガルムに集結させれば、
共和国の軍事力は優に10万から15万程度にはなる。
…ミッドガルム軍も相当な被害を出している事を考慮すれば、現在の共和国の戦力でも何とかなるかもしれないな。
アストリア王国の消滅と共に多くの戦力を失っていると考えられるからだ。
この地においても戦いに敗れて敗走したことを考えれば残された戦力は決して多くはないはず。
100万の軍勢はすでに半数以下に減少していると考えていいだろう。
…だとすれば決して勝てない数ではない。
戦うべき相手がミッドガルムだけならば、
こちらも戦力を結集して戦うことが出来る。
アルバニアがイーファとカーウェンを制圧してくれれば共和国は背後の守りに軍を割く必要がない。
共和国の全軍をもってミッドガルムを攻めれば勝ち目は十分にある。
数では負けていても攻撃力においては圧倒的に勝るのだからな。
総合的な軍事力はほぼ互角と判断しても問題ない。
…本来ならば勝ち目などないが。
多くの犠牲を出して弱りつつある今のミッドガルムならば互角に渡りあえるはず。
…国家再編成を実現させる為には敗北は決して許されない。
共和国の未来の為に。
全ての魔術師の未来の為に。
幻夜の計画は必ず成功させる必要があるのだ。
「幻夜の計画に賛同する。共和国はアルバニアとの同盟を受け入れて国家再編成に協力しよう。」
「ああ。宗一郎ならそう言ってくれると信じていた。やはりお前は信じる価値のある男だ。互いの立場など関係なく、お前は俺の友だ。その関係はいつまでも変わらないと思っている。」
…ああ、そうだな。
例え俺達を繋ぐ天城総司がこの世にいないとしても俺達の関係は変わらない。
共に天城総司を慕う者として幸せな結末を願うだけだ。
「二度と悲劇を繰り返さないために。そして二度と争いが起こることがないように。共に和平の実現を目指そう。」
…ああ。
差し出された幻夜の手をしっかりと握り返す。
「幻夜、お前の協力に感謝する。お前がいなければ共和国は絶望的な戦いを強いられていたはずだ。だがお前がいてくれたおかげで共和国は未来への希望が持てた。全て…全てお前のおかげだ。」
心から感謝しながら想いを言葉にしたことで幻夜は微笑み続けてくれていた。
「俺はただ…あの方の意志を継いで争いのない世界を目指しているだけだ。ただ、それだけのことだ。」
…それだけ、か。
言葉で言うのは簡単だが、
それがどれほど難しいことかは十分に知っているつもりだ。
仮にも共和国の代表として活動していた時期があるのだからな。
国の方針を変えるなど、
ただそれだけと言えるほど簡単なことではないはずだ。
「俺はアルバニア軍を率いてイーファに進軍する。イーファは小国で軍事力は最弱だからな。制圧するのにそれほど時間はかからないだろう。イーファに攻撃を仕掛けて首都を制圧次第、カーウェン連合国にも進軍して両国をアルバニアの支配下におくつもりだ。その間に共和国はミッドガルムを制圧してほしい。」
「ああ、分かった。」
幻夜の方針を受け入れて、
ミッドガルムとの戦いに意識を向けることにしよう。
「何とかしてみせる。」
「うむ。ではこれで同盟は成立だ。もはや俺達がここにいる必要はないだろう。これからのミッドガルムとの戦いに関しては宗一郎に任せて、俺は軍を率いてイーファに向かうことにする。」
「もう行くのか?」
「ああ、行動は早ければ早いほど被害を最小限にとどめられるからな。」
「…そうか。」
確かにそうだ。
イーファやカーウェンに準備期間を与えないことも重要になる。
「次に俺達が出会う時に和平の為の交渉が出来ると信じて、今はここで別れよう。」
「ああ、分かった。こちらは俺達に任せてくれ。必ずミッドガルムを制圧してみせる。」
「頼んだぞ。」
自信を持って答えた俺から離れた幻夜が動き出す。
「全てが片付いたらまた会おう。」
話を終えたことで立ち去ろうとした幻夜だったが、
その前に何かを思い出した様子の幻夜は足を止めて振り返ってきた。
「そうそう。言い忘れていたが、お前が派遣していた偵察部隊は俺達が保護しているぞ。」
「偵察部隊?」
…何のことだ?
いや、違うな。
…どこの部隊だ?
すぐには思い浮かばなかったのだが、
幻夜は微笑みながら教えてくれた。
「アルバニア王国に向けて放っていた偵察部隊だ。数名だったが捕獲して連れてきた。全員解放しておくから出迎えてやれ。」
アニバニアに?
…と、言うことは?
前園副隊長の部隊か!
誰の部隊なのかに気付いた瞬間にはすでに、
幻夜は俺の前から立ち去っていた。




