均等化
「現時点において、陰陽師の国と魔術師の国、そして第3の国による3ヶ国同盟を成立させる以外に和平を実現させる方法はないと言ってもいい。」
…ああ、そうだな。
国家として対立しあう限り和平の実現はありえないからだ。
だが幻夜の計画が成功すれば、
共和国は本当の意味で国家としての独立が認められることになる。
さらには第3の国という両者の共存する国が実現できれば陰陽師との対立も解消されることになるだろう。
国家としての独立と陰陽師との共存。
二つ目的を成立させる為には幻夜の計画は大きな意味があった。
…だが。
この計画を実現するためには幾つもの問題が存在している。
それはつまり。
大陸南部の全国家を再編成する為にはミッドガルムやセルビナの制圧が必要不可欠だが、
同時にイーファとカーウェンの両国家も領土を解体しなければならないということだ。
俺達が最も頭を悩ませる部分。
それは国家の解体であり、
国家の消滅という部分でもある。
セルビナ王国とミッドガルムに関しては戦争を起こした責任として国家の解体は可能だが、
イーファとカーウェンは理由もなく国家を解体するわけにはいかないからな。
単純な実力行使では侵略と何も変わらない。
「イーファとカーウェンを統合することは可能なのか?」
まだ戦争に参加していないイーファとカーウェンの両国を支配して解体するというのはさすがに問題があるはずだ。
「下手に手を出せば、こちらが侵略したことになるのではないか?」
和平を実現させるためとはいえ、
他国を支配するわけにはいかないからな。
「どうするつもりだ?」
「それならば問題ない。イーファに関してはすでに大義名分が存在している。イーファはセルビナ王国の救援要請に同意して戦争への参加の意志を示しているのだ。」
…ほう。
こちらはまだそこまでの情報を入手できていないのだが、
どうやらイーファは戦争に加わるつもりでいるらしい。
「それなら大義名分は通るか。」
「ああ、特に問題はないだろう。それと…だ。」
各地に放っている密偵からおおよその事情を把握している幻夜から、
もう一つの事実も告げられることになった。
「セルビナの要請を受けて戦争への参加の意志を示したイーファだが、イーファ軍の進攻を足止めするために国内に潜む魔術師達が王都内部で戦闘中のようだ。そのせいでイーファは軍を派遣できずにいるらしい。」
…なっ!
何だとっ!?
幻夜の話を聞いて戸惑ってしまう。
さすがに今の言葉はすぐには信じられなかったからだ。
…国内に潜む魔術師だと!?
考えられる可能性は魔術師ギルドに所属する魔術師達しか考えられない。
だがイーファに限らず、
各国のギルドの戦力は決して多くはないはずだ。
ギルドの魔術師が全員参加しても一国を相手にして戦うなど当然不可能。
それが可能ならばこれほどまでに苦労したりはしない。
「イーファの魔術師ギルドの戦力は300名程度しかいないはずだ!どう考えてもイーファの陰陽師軍を足止め出来るような戦力ではないぞ!?」
「俺も詳しい事情までは把握していないが、事実としてイーファは軍を動かせずにいるらしい。情報が間違いでなければ魔術師による妨害を受けて…な。」
…あり得るのか?
イーファの魔術師ギルドは倉嶋善治や桐島亮平などの優秀な戦力を揃えてはいるが、
国家を相手に出来るほどの実力ではないはずだ。
「それとイーファの内部で共和国の学生が確認されているらしい。少なからず増援部隊が存在しているようだな。その中の一人が王城に単独で突撃したという報告までは受けている。」
…馬鹿なっ!?
単独で突撃だと?
そんな無謀な行動に出るような生徒に心当たりはない。
…どういうことだ!?
一体、誰が動いているんだ?
「まあ、現地の状況は実際に足を運べば分かることだ。今ここで考えていても仕方がない。それよりも今は考えるべきことが他にある」
…あ、ああ、そうだな。
国家再編成の為にやるべきことを話し合う必要がある。
「俺達が入手している情報では、すでにセルビナ王国は壊滅寸前らしい。王都に迫る共和国軍に対して太刀打ちできるだけの戦力がセルビナにはないようだ。」
「セルビナはそこまで追い詰められているのか?」
「ああ、セルビナ王国が落ちるのは時間の問題だな。王都の制圧に関しては俺達が心配する必要はない。」
…そうか。
それなら良いんだが、
すでに幻夜はセルビナ王国の敗北は確定的だと考えているらしい。
「早ければ今日中には決着が着くだろう。まずは一国だ。セルビナの滅亡によって国家再編成は一歩前進することになる。そしてここからが本題なのだが、俺達アルバニア軍はイーファとカーウェンに進軍するつもりでいる。第3の国を作り上げる為にはセルビナ、イーファ、カーウェンの3国を一つにまとめあげる必要があるからな」
「それは良いが、カーウェンを攻める名目はどうするつもりだ?理由もなく攻撃を仕掛けるのか?」
「カーウェンに関してはひとまず降伏勧告を行うつもりでいる。現時点ではまだ戦争に参加する意思があるかどうかは不明だが、話し合いで解決するならそれで良いからな。」
…つまり、降伏を受け入れない場合は攻め落とすということか。
「まずはイーファを落としてから様子を見るつもりだ。黙って侵略されるつもりはないだろうからな。何かしらの行動に出てくるだろう。」
…ああ、それはそうだ。
徹底抗戦か恭順か。
どういった判断が下されるかはわからないが、
イーファが落ちた時点で決断が迫られるのは間違いない。
「ひとまず両国に関しては俺達に任せてくれ。」
セルビナとイーファとカーウェンの3ヶ国を統一して新たな国を作り上げる為に。
幻夜は進軍するつもりでいるようだ。
「問題はミッドガルムをどうするかだ。こちらに関して俺達アルバニア王国は手を出さないほうが良いだろう。今後の予定として共和国の領土とする為には、共和国が自らの力でミッドガルムを下すべきだからな。」
…確かに。
ミッドガルムを滅ぼすのが共和国であれば、
共和国はミッドガルムの領土を手に入れる権利が生まれる。
だがもしもアルバニアがミッドガルムを滅ぼせば、
ミッドガルムの領土はアルバニア王国の物になるだろう。
国家の繁栄という意味で考えればアルバニア王国もミッドガルムの領土を手に入れたいとは思うが、
出来る限り均等に国を分ける為にはアルバニア王国が肥大化しすぎる事態も避けるべきだ。
だからこそ幻夜はミッドガルムとの戦いを避けるつもりでいるらしい。
「あくまでも最終的な目的は3国同盟による和平の実現であって、領土の奪い合いを前提としているわけではないからな。その為にもミッドガルムは共和国が落とす必要があると俺は考えている。」
…ああ、そうするべきだ。
結果的にはアルバニア王国も他国の領土を手にして拡大することにはなるが、
それは3国同盟を成立させる為の準備に過ぎない。
あくまでも和平の実現が目的であって領土の拡大を目的とした侵略戦争ではないという意志を貫き通すことが最も重要な部分になる。
「まもなくセルビナ王国は滅びるだろう。その時点で一国が支配下になる。その後、共和国軍がミッドガルムに進行してミッドガルムを下すことが出来ればさらに一国が支配下に入る。その間に後方の憂いとも言えるイーファとカーウェンをアルバニア軍が制圧することで計4ヶ国の占領が実現する。」
セルビナとミッドガルムを共和国軍が制圧して、
イーファとカーウェンをアルバニア王国軍が制圧する。
それが幻夜の計画の全貌だった。




