何故、呼ばれなかったのか?
《サイド:長野淳弥》
…馬鹿なっ!
自己犠牲魔術だとっ!?
使えば確実に術者が死んでしまう禁断の魔術によって、
笹倉美和子は起死回生の一撃に出てしまった。
「美和子〜〜〜~っ!!!!」
上矢遥の叫び声が戦場に響き渡り、
イクシオンを上回る雷撃が竜道寺の体を貫いている。
「ぐっ…がはっ!?」
月の守りを貫かれのか?
竜道寺は口から血を吐いて大地に膝をついていた。
…まさか突き抜けたのかっ!?
この戦いにおいて初めて傷を負ったのは間違い。
「…くっ!」
腹部に空いた穴の大きさは5センチほどかもしれないが、
人体にとっては致命傷とも言える一撃だ。
笹倉美和子が命を懸けて放った自己犠牲魔術によって竜道寺は瀕死の重傷を負っている。
…今なら勝てるっ!
膝をついた竜道寺の姿を見て、
希望と絶望が同時に感じられた。
…秘宝の力も突き抜けられるってことだ!
竜道寺に攻撃するのが不可能ではないことが実証された。
だがその代償として笹倉美和子は犠牲になってしまった。
…くそっ!!
ただ見ていることしか出来ない俺の視線の先で笹倉美和子は自らの命を絶ってしまったんだ。
友を守る為だけに。
たった一人の親友を守る為だけに自らの命を犠牲にした。
…なのに!
俺は一体、何をしているんだ!?
何も出来ないまま地面に伏して。
仲間が犠牲になる瞬間を見届けることしか出来なかった。
そんな自分の不甲斐なさによって込み上げる怒りが俺の心を黒く染め上げて、
澱んだ憎しみが自らの存在を責め立ててしまう。
…まただっ!
俺はまた何も出来ないまま、
取り残されているだけだ!
4年前の戦いもそうだった。
慶太が反乱軍として竜の牙に戦いを挑んだ時も俺は戦力に含まれなかった。
何も知らされず。
何も聞かされず。
何も分からないまま結果だけを知らされたんだ。
あの時の悔しさと切なさを俺は今でもはっきりと覚えている。
…俺は足手まといじゃねえっ!!
心の中で何度叫んだのか今となっては覚えていないが、
俺は今まで心の叫びを表に出さずにじっと堪え続けてきた。
もしも戦場に参加することが出来たなら、
その時に自らの実力を証明しようと考えていたからだ。
…なのにっ!
今、目の前で起きている現実を見て思うことは一つしかない。
…俺は、役立たずだったんだなっ。
今なら分かる。
何故、俺だけが戦場に呼ばれなかったのか?
その意味を理解してしまったからだ。
…俺は足手まといだ。
ジェノスの中だけで見れば最強になれたかもしれない。
だがそれは一つの町においての称号にすぎなかった。
反乱軍が倒すべき竜の牙の力は俺には手の届かない遥かな高みにあったからだ。
…俺は役立たずだった。
自ら実感する現実。
隙を見せた竜道寺に襲い掛かる力もなく。
立ち上がる力さえもない。
そんな状況に追い込まれてようやく俺は本当の絶望を思い知った。
…俺は姉貴と慶太に守られていたのか。
わざと戦地から遠ざけられていたのだと今になって気付いてしまった。
…情けねえな。
本気で落ち込んでしまう。
そうして頭を垂れてしまった俺の視界の端で、
一人の人物が竜道寺に襲いかかろうとしていた。




