聞き捨てならない情報
《サイド:桜井由美》
…はあ。
やっと着いたわね。
港町ジェノスを出発してからほぼ3日を費やしたけれど。
私が率いる共和国の混合部隊は、
正午を過ぎる頃になってからようやくグランバニアにたどり着いたのよ。
「まずはグランパレスかしら?」
目的地を決めて軍を進めていく。
その途中で近くに待機していた様子の陸軍の幹部が駆け寄ってきたの。
「桜井様!」
…ん?
あら?
…見たことがある顔ね。
名前までは覚えていないけれど。
何度か会ったことがあるはずよ。
「お迎えかしら?」
「はい!」
呼び掛けられたことで足を止めて振り返ると、
見事なまでに敬礼されてしまったわ。
「桜井様をお待ちしておりました。私は陸軍中将の柳と申します。桜井様をグランパレスまでご案内する為に待機しておりました。」
…ああ、柳ね。
言われて思い出したけれど。
軍の中ではかなり階級の高い重要な人物だったはずよ。
「わざわざありがとう。」
「いえ、これが職務ですから。」
幹部の一人なのに、
低姿勢な態度は好感が持てるわね。
…と言うか。
だからこそ顔を覚えていたとも言えるんだけど。
迎えとしては実に適任な人物だと思うわ。
「早速ですが、幾つかお伝えすることがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、良いわよ。」
断る理由もないしね。
聞ける情報は聞いておくべきよ。
「遠慮せずに言って。」
「はい。それではまず始めに、各町に派遣していた桜井様の部隊はすでにグランパレスに帰還しています」
…あら。
思ったより早かったわね。
「もう集まっているの?」
「はい。南部と東部に派遣されていた部隊はグランパレスにて待機しています。それと陸軍の増援部隊も用意致しましたので、よろしければそちらも桜井様の指揮下にお加え下さい。」
…おぉ~。
なかなかの手際ね。
戦力が増えるのは有り難いわ。
「どれくらい集めてくれたの?」
「ひとまず5000です。」
…ふ~ん。
なるほどなるほど。
集まった陸軍の数は5000だけでも、
戦闘が主体の戦力だから質としては申し分ないわ。
「現在も部隊を集結させ続けていますが、現状ではこれが精一杯です。」
…まあ、それは仕方がないわね。
どこも人手不足なのよ。
それでも5000人もの戦力が集まっただけでもありがたいと思う。
「それじゃあ、喜んで陸軍の部隊を預からせてもらうわね。」
「はい!」
柳の進言によって、
陸軍の部隊も私の部隊に加わることになったの。
「それから、もう一つあるのですが…。」
「ん?まだ何かあるの?」
「はい。」
…何かしら?
特に思い当たることがないんだけど。
首をかしげる私を見て、
柳がこっそりと耳打ちしてくれたの。
「エスティア魔術学園の生徒達もすでにグランパレスに駆け付けています。日高芙美様の下で修業を行っていたようで、例の禁呪を身につけているようです。」
…ほほ~。
それはそれは、聞き捨てならない情報よね。
共和国において使用禁止にされたはずの禁呪が解放されてしまったのは少なからず問題があると思うからよ。
まあ、状況が状況なら問題行為だけれど。
今は倫理観がどうこうなんて言っていられる状況じゃないわよね?
…頼りになる戦力は一人でも多いほうが良いのよ。
上矢遥を筆頭に禁断の魔術を手にしたエスティアの生徒達は間違いなく即戦力になるわ。
それほどの実力者が合流したという話は喜ばずにはいられないわよね。
「頼りになる子達がまだまだいるのね~。」
戦力が増えるのは素直に嬉しいと思うの。
だけどそれはエスティアの生徒達だけじゃないわ。
カリーナの学園に帰れば冬月彩花や文塚乃絵瑠がいるはずだから。
暗黒迷宮において修業しているはずの生徒達が私の到着を待っているはず。
…こうなると早くあの子達も迎えに行ってあげないといけないわね。
戦力の増強を考えながらも、
念のために柳に問い掛けてみることにしたの。
「一応聞くけど、もう他の町は経由しなくていいのね?」
「はい。調査の必要はありません。各町の状況は帰還した部隊から、おおよその内容を聞いていますので、情報収集という意味ではすでに作戦は完了しています。」
…そう。
それなら良いのよ。
柳は私の任務が終了したことを告げてから次の任務を教えてくれたわ。
「現在、カルナック山脈において再びミッドガルムが軍を動かしてきたようです。そちらに対応する為に桜井様には早急に国境へ向かっていただきたいと考えています。」
なるほど。
…と言うことは。
また国境に布陣する必要があるのね。
その為に陸軍は各地に伝令を手配して、
私の部隊を集結させていたということよ。
各町に派遣していた生徒と傭兵の混合部隊を呼び集めながら、
同時に陸軍の部隊も可能な限りかき集めてくれていたのかもしれないわ。
その召集に応じて上矢遥達も合流したことで、
陸軍は出来る限りの準備を整えてくれていたんでしょうね。
「全部隊を編成して、一刻も早く国境への参戦にご協力下さい。」
…ええ、そうね。
予定していたよりも多くの戦力が集まりそうで助かったわ。
「それじゃあ、全ての部隊を預かるわよ。」
丁寧な対応で願ってくれる柳の言葉を受け入れて、
ひとまずグランパレスに向かうことにしたの。
出来る限りの部隊を集めてくれた陸軍の協力に感謝しながら、
カルナック山脈に向かう為の準備を始めることにしたのよ。




