一度だけ
《サイド:鈴置美春》
…栗原さん!?
「大した偽善だな…。」
倒れた栗原さんを見ていた野々村さんは複雑な表情を浮かべていたわ。
「これが…貴方の望む結末ですか?」
「…どうだろうな。」
野々村さんにとっても予想外の展開だったのかもしれないわね。
だけど問い掛けられた質問に対して栗原さんは一切の迷いをみせることなく。
最後まで笑顔を浮かべながら自らの意思を行動で示したのよ。
信じてくださいという言葉だけを残して、
身を守るはずの防御結界さえも拒絶して自らの意志で命を絶ってしまったの。
「心意気は認めよう。だが…な。お前達はまだ本当の意味で命の価値を理解していないのではないか?」
その行動を目の前で見届けていた野々村さんは血まみれで倒れる栗原さんに向けて冷たい言葉を囁いていたわ。
「もしも全ての生存を望むのであれば…そして全ての未来を望むのであれば自らの命さえも守るべきだ。誰かの犠牲という言葉の中に自らの命を含めない時点で、お前達の言葉は偽りでしかない。」
他人の犠牲は認めないけれど、
自分自身の犠牲は受け入れる。
そんな考え方では残された人達に悲しみが残るという現実は何も変わらないということでしょうね。
「お前達は自らの意思で、自らの想いを否定したのだ。」
残された人達に笑顔なんて有り得ないし、
残された人達に残る想いは悲しみでしかないという事実を指摘してきたのよ。
「…とは言え、お前達の覚悟に免じて一度だけ手を退こう。我等海軍は共和国軍に対して攻撃を行わない。それだけは約束する。」
私達の考えを否定しながらも、
投降はしないけれど対立もしないという方針を約束してくれたの。
「我等海軍は共和国軍に対しての攻撃を中断する。」
野々村さんの決断によって室内に控えていた幹部達が無言で恭順の意思を示していたわ。
「全部隊を停戦させろ。そして共和国軍から手を退くように各港へ手配しておけ。」
「「「はっ!」」」
指示を与える野々村さんに従って、
幹部達は急ぎ足で室内から退室して行ったわ。
そうしてこの場に残ったのは野々村さんだけになったのよ。
…これで良かったの?
何が正しいのかが私にはもう分からない。
それでも必死に栗原さんの治療を行うしかない私や常盤さんの様子を眺めながら、
野々村さんは飯塚さんに話し掛けていたのよ。




