一緒に目指しませんか?
《サイド:栗原薫》
「もう、止めませんか?」
武器を持たずに。
争う意思さえみせずに。
無防備な状態で野々村さんに歩み寄る。
「これ以上言い争っても解決するとは思えません。だから…一度だけ信じてもらえませんか?」
真剣な表情でお願いしてみたの。
そんな私の声を聞いて、
野々村さん達も私の存在に気付いたみたい。
「まさか、お前か?お前があの時の…?」
前回の海戦で大規模魔術を使ったのが私だって気付いたようね。
「お前は…かつてないほどの偽善者だ。」
…分かってる。
「戦争の渦中において全てを守るなどと考えるべきではない。お前の判断によって多くの仲間達が死ぬ可能性を考えなかったのか?あるいは戦闘が泥沼化する可能性を考えなかったのか?」
…ちゃんと分かっているわ。
何も考えなかったと言えば嘘になるし。
それでも仕方がないと思っていたのかもしれない。
「結果的に共和国軍が勝利したとは言え、場合によっては共和国軍が全滅していた可能性もあったはずだ。」
…かもしれないわね。
「敵を救う為に味方を巻き込むなど、本来ならば絶対にあってはならない最悪の選択だ!」
…ええ、分かってる。
厳しい指摘を行う野々村さんだけど。
それでも私は自分の想いを伝えようと思うの。
「確かに私の行動によって多くの仲間に迷惑をかけたのは事実だと思います。」
だからどんな処罰を受けたとしても仕方がないと思っているわ。
「だけどそれでも…私には皆さんを見捨てることが出来ませんでした。」
一人の医師としても。
一人の人間としても。
死を否定したいと思うから。
「誰かを犠牲にして得られる未来なんて私は望みません。」
誰かを殺すことでたどり着く未来なんて必要ないの。
「みんな大切な命です。そこに善悪は在りません。」
それぞれに生きる意味があって、
生きる価値があるはずよね?
「だから私はみんなに生きていて欲しいです。みんなで喜びを分かち合って、みんなで悲しみを分かち合えるような…。そんな普通の日々を望んでいます」
ただただお互いに笑い合えること。
そして悲しみを分かち合えること。
そんな平凡でありふれた日々を願っているのよ。
「みんなが笑い合える世界を願うことが偽善だと思うのですか?」
私が望んでいるのは特別な世界なんかじゃなくて、
ごく普通にありふれた平凡な日常なの。
それこそが真の平和だと思っているから。
「お互いに協力し合うことで、すぐに実現できる理想ではないでしょうか?私はそう思います。」
決して難しいことじゃないわよね?
決して叶わない願いじゃないはずなのよ。
お互いに協力し合えれば。
お互いに分かり合えれば。
それだけで現実になるわ。
「だから、一緒に目指しませんか?」
「………。」
祈りを込めて問い掛けてみたんだけど。
それでも野々村さんは迷っている様子だったわ。
「すぐに結論が出せる話ではない。だが、否定はしない。」
…うん。
それで良いんじゃないかな。
否定されなかっただけでも、
ちゃんと思いが通じたって思えるから。
それぞれに考え方が異なるのは当然だと思うし。
海軍元帥という立場のせいで譲れない想いもあるでしょうしね。
だから否定されなかっただけでも、
話し合う意味はあったと思うのよ。
「お前の言い分は理解した。だが、こちらも国を守るという責務があるのだ。その責任を放棄して、お前達を見過ごすことなど出来ん。」
例え戦う理由がなくなったとしても、
最後まで戦い続けなければ戦場で死んでいった仲間達に顔を向けることが出来ないという責任でしょうね。
「だから…だ。」
立場的に和平を受け入れられない野々村さんは、
交渉の条件として一つだけ提案してきたの。




