延命措置だけ
《サイド:栗原薫》
…うわぁ。
共和国軍の攻撃によってセルビナの海兵達が次々と倒れていく。
魔術の攻撃で破壊された室内。
セルビナの海兵達が流した血のせいで、
通路は赤く染まっているのよ。
…一方的って、こういう状況を言うんでしょうね。
各地で行われている戦いの様子を眺めていた私達はセルビナ軍の手当も行いながら砦の内部を探索していたの。
黒柳さんに飯塚駿一さん。
そして私と成美の4人でね。
…傷付いて倒れたセルビナ軍の人数は数知れず。
瀕死の重傷とも言える危険な状態の兵士達も少なからず存在しているわ。
「すぐに治療するわね。」
倒れた海兵に駆け寄って回復魔術による治療を行う。
ただ、復帰したセルビナ軍ともう一度戦闘になる事態を避ける為に万全な状態にまで治療することは出来ないの。
それでも私の治療によって死の危機は回避できたはずよ。
放っておけば確実に死んでしまう重傷の治療だけを行いながら、
即座に海兵から離れて安全を確保しておく。
そうして海兵の反撃を警戒しながら行動していたんだけど。
今のところ私達に危害を加えようと考える海兵は一人もいなかったわ。
「…ごめんね。」
しっかりとした治療が出来ないことで謝ることしか出来なかったのよ。
本当なら完璧に治療したいと思うんだけど。
ここはまだ戦場だし。
今現在も多くの仲間達が命懸けの戦闘を続行している状況で敵を増やすわけにはいかないから。
そのせいで色々と葛藤してしまうんだけど。
ひとまず各地で倒れている海兵達の治療を出来る限り続けることにしたの。
「もう少しだけ我慢してね。」
そっと語りかける私に海兵達が救いを求めてくる。
「た、助けてくれ…!」
「まだ死にたくないんだ…っ。」
絶望の表情を浮かべながら助けを求める海兵達だけど。
もとはと言えば共和国軍がしてる行いだから、
助けるなんて言葉は私には言えない。
…攻撃を仕掛けておいて恩を売るようなことは出来ないわよね?
私にできることは延命措置だけよ。
ちゃんとした治療することは出来ないから、
死なない程度の治療を続けるしかなかったの。
だけど私の姿を見て影響を受けた様子の成美も、
傷付いて倒れたセルビナ軍の海兵達の治療を始めてくれていたわ。
ひとまず私と成美の治療と看護によって、
現段階においてセルビナ軍に死者は出ていないはず。
他の階まではどうかなんて分からないけれど。
私達が行動している1階での死者は0のはずよ。
…でも、ね。
今も多くのセルビナ軍が倒れている事実に変わりはなくて、
見渡す限りどこを見ても怪我人の姿が見えるの。
「…ふむ。もはやボロボロとしか言いようがないな。」
…ですよね。
私も黒柳さんの言葉が真実だと思うわ。
抵抗する気力さえも失って、
必死に怪我の痛みを堪えているセルビナ軍はすでに戦えるような状態じゃないからよ。
共和国軍の攻撃を受けている砦だけじゃなくて、
内部を守るセルビナ軍も凄惨な状況だったの。
「これがセルビナ軍の現状と言うことか…。」
精神的にも、
肉体的にも、
ボロボロの海兵達。
砦の内部に潜む海兵達の多くは前回の海戦によって疲労困憊の状態のようで、
まともに戦える戦力なんてほとんど残っていないみたい。
さらに言うとね。
ほとんどの人達が疲れきった表情を浮かべていて、
動くことさえも辛そうに見えるのよ。
…本来ならベッドの上で安静にしていなければいけない状態のはず。
それでも共和国軍が攻め込んで来たということで必死の抵抗を試みようとしているの。
その気持ちは素直にすごいと思うけれど。
戦いたいと思う意思に反して、
体は思うように動かない様子ね。
「…すでに体力の限界を越えているだろうな。」
…ええ。
私もそう思うわ。
本来なら体調が良くなるまで安静にしていなければならない状態の人達でさえも、
砦を守る為に戦わなければいけないほど戦力が足りていないの。
それでも必死の抵抗も虚しく、
万全な状態の共和国軍を前にして足止めさえも出来ずにいるということよ。
「…これが共和国の力か。」
セルビナ軍を蹴散らしながら砦の制圧を進める共和国軍の様子を眺める飯塚駿一さんが小さな声で呟く声が聞こえたわ。
まあ、一方的としか言いようがない戦闘だから何を言われても仕方がないんだけどね。
共和国軍の戦闘を見ていた飯塚駿一さんは恐怖を感じている様子だったわ。
「神か悪魔か…。どちらにしても人に在らざる力だな。」
…かもしれないわね。
魔術という名の力。
それは願うだけで人を殺せる力なのよ。
だからこそ。
恐怖を感じる気持ちは私にも理解できるの。
…だけど。
同時に思うこともあるみたい。
「その力があれば…人を救うことも出来るんだな。」
…ねえ、そうよ。
人を傷付けるだけじゃないわ。
人を癒すことも出来るの。
私や成美のように苦しむ人々に対して救いの手を差し延べることだって出来るのよ。
そんな私達の力を飯塚さんは静かに見つめてた。
「今は彼女の想いを信じよう。」
私が願う平和。
私が望む幸せ。
それらを信じて共和国軍に協力してくれるみたいね。
「…共和国の描く未来を信じよう。」
例え裏切り者と呼ばれるとしても。
例え仲間達から憎まれるとしても。
私の言葉を信じる道を選んでくれたのよ。
…だから、大丈夫。
目指す未来はきっとあるわ!
誰もが笑って過ごせる世界を実現することだって不可能じゃないはず。
平和を願う想いが世界中に広がれば。
その想いが多くの人々に届けば。
奇跡は必ず起きるのよ。
今はそんなふうに信じながら、
最小限の救助活動を続けることにしたの。




