汚名を負ってでも
…さあ、始めようか。
午前9時15分。
ついに海軍艦隊がオルトナの港に接近した。
「セルビナ軍の攻撃に備えろっ!!」
弓矢による遠隔攻撃に備えて海軍を甲板に布陣させておく。
敵の戦力が小規模とは言え、
まだ完全な修理が終わったわけではないからな。
…軍船を狙われてしまえば、船が沈む可能性は十分にある。
昨日一日をかけて行った船の補修作業はあくまでも応急処置であり、
これから行う一戦を乗り切る為の簡易的な補強でしかないのだ。
だからこそセルビナ軍の攻撃を受けることで沈む可能性を否定できない。
…まずは船の防衛が優先だな。
沈没の危険性を考慮しながら港へと船を進めていく。
「戦闘が始まるぞ…っ!」
セルビナ軍との距離が徐々に狭まり、
弓矢の射程距離まで船を進めた直後に。
「「「撃てーーーーっ!!!!」」」
弓を構えていたセルビナ軍が一斉に火矢を放ってきた。
…火矢か。
やはり船を狙ってくるようだな。
限られた戦力でも火矢の数は数千におよぶ。
まあ、敵の数が少なくとも、
一人で何度も矢を放てば数は増えるのだからな。
決して油断できる攻撃ではない。
…火はまずいか。
燃え上がる火の矢が艦隊に襲い掛かってくるのだ。
早急に対応しなければならない。
「全ての矢を吹き飛ばせっ!!」
必死に叫ぶ俺の指示を受けて放たれた風の魔術によって、
セルビナ軍が放った火矢は吹き飛ばされて、
こちらに届く前に海に落ちて炎を消滅させていく。
…良し!
これでいい。
「このまま船を守り抜け!」
セルビナ軍の攻撃を無効化しながら進む艦隊。
対立するセルビナ軍が布陣している港に船を進めながら、
こちらも戦闘を開始することにする。
「突撃部隊!上陸用意!!!」
全ての火矢を回避しながら、
海軍艦隊が港に接岸した。
「突撃開始っ!!!」
「「「「「おおおおおおおっ!!!!!」」」」」
続々と港に上陸していく兵士達に旗艦から指示を出し続ける。
「港を制圧しろっ!!!」
まずは10隻の軍船から海兵が突撃を開始して、
俺達の乗り込む旗艦を含めた残り6隻の船は船上からの魔術攻撃を継続することにした。
「上陸した海軍の援護を行いながら、船の防衛に専念しろ!」
軍船の防衛を最優先として、
セルビナ海軍の攻撃を妨害しつつ共和国海軍の援護を行うことにしたのだ。
港に上陸した1万の海軍の攻撃によってセルビナ軍は続々と制圧されていく。
…今回は圧勝だな。
「逃亡する者は見逃せ!深追いはせずに、立ち向かってくる敵だけを殲滅しろっ!!」
無血占領が最良ではあるが、
戦争である以上はそこまで多くは望めない。
命懸けで立ち向かう敵がいるのなら、
その命は奪わなければならないからだ。
…だが、それでも願っておくべきか。
「極力、殺さないように最善を尽くせ!!」
一人でも多くの命を守る為に。
一人でも多くの命を救う為に。
何度も願い続ける。
「犠牲は最小限に留めろ!それが俺達の戦いだっ!!」
全滅させるのではなく生存させることを目的として全体の指揮をとっていく。
「一人でも多くの命を守り抜くぞ!」
セルビナ軍も保護の対象に含みながら、
次に飯塚駿一に問い掛けてみることにした。
「この町の軍事拠点を教えてほしい。拠点を制圧して町を占領することが最小限の犠牲で戦いを終える最善の方法だからな。」
今回は町を攻撃することが目的ではない。
あくまでも被害を最小限に抑えることが目的であると宣言しておく。
「争いが泥沼になる前に、この町の制圧を完了させたい。」
「…ああ。協力しよう。」
俺の言葉を聞いた飯塚駿一は、
町の各所を見回してから拠点の方角を教えてくれた。
「あちらに建つ最も大きな建物がこの港の軍事拠点になる。全ての海兵があの建物に集まっているはずだ。そして建造中の軍船もあの場所に保管されているはずだ。」
…ほう。
建造中の船もあるのか。
俺達がいる場所から少しだけ離れた位置にある海軍の砦は海に面しているらしく、
海から直接軍船が入ることが出来る構造に作られているようだ。
「あの砦を制圧して町の各所にある施設を制圧できれば、この町は完全に共和国の支配下になるだろう。」
…なるほどな。
飯塚駿一は町の見取り図を取り出してから、
拠点となる施設を全て説明してくれた。
「拠点は砦を含めて全部で6ヶ所ある。これらを制圧し終えた時が共和国軍の勝利だ。」
内部の極秘情報とも言える味方の情報を話す行為はセルビナ王国に対する裏切りそのものだが、
それでも飯塚駿一は全てを共和国に委ねてくれている。
「見せてもらおう。共和国の力を…そしてその結末をな。」
「ああ、いいだろう。」
どうやら俺達を試すつもりらしい。
力による制圧を目指すのか?
それとも『それ以外』の方法を示すのか?
戦いの結末を飯塚駿一は見届けるつもりでいるようだ。
「争いのない世界。そして全ての命を救う戦い。それらが実現されるのかどうかを見させてもらう。」
自らの命を賭けて。
この町の命運を賭けて。
俺達の言動を見定めようとしているのだ。
「俺が手を貸すのは『少女の想い』に賛同したからだ。だがもしもその想いに反する動きを見せたなら、この命を賭けて戦うつもりでいる。それが俺のセルビナ海軍としての誇りだ。」
…ふむ。
もしも共和国軍の戦いが飯塚駿一の想いに反するものならば、
即座に俺の命を奪うつもりでいるのだろう。
常に俺を殺せる位置に立ち続けているようだからな。
例え裏切り者の汚名を負ってでも、
栗原君のために協力しようとしてくれているのは間違いない。
…飯塚駿一は誠意を示してくれた。
だがその誠意に対して共和国が応えないならば、
和平も平和も有り得ないということだ。
「この一戦で見せてもらう。共和国の未来とその行く末を。」
…ああ、好きにすればいい。
「きみの想いも無駄にはしない。もちろんきみをただの裏切り者にもしない。きみの信じる未来を俺達が実現して見せる。それだけは約束しよう。」
理想が幻想だなどと誰が決めた?
夢物語が現実では有り得ないと誰が決めた?
出来るか出来ないかは問題ではない。
俺達はただ願うだけだ。
そして望むべき未来に向かって、
今ここで出来うる最大限の努力をするのみだ。
「全軍『拠点の制圧』を目指して攻め続けろ!!」
艦隊に指示を出してから旗艦には移動を命じる。
「旗艦は砦に突撃させろ!」
たった1隻での突撃だ。
これから始まる戦いに向けて仲間達に声を賭ける。
「すでに分かっているとは思うが、俺達の目的は殺し合いではない。一人でも多くの命を守ることが俺達の目指す戦いだ。栗原君の理想を現実にする為に、みんなの力を貸してほしい。」
「「「「「はい!」」」」」
心から願う俺の想いに全ての乗組員が賛同してくれていた。
栗原君は当然として。
鈴置君や御堂君を筆頭として。
常盤君も和泉君も海兵達や飯塚駿一も賛同してくれているのだ。
それらの表情を順番に眺めてから、
改めて戦いの合図を出すことにした。




