港町オルトナ
《サイド:黒柳大悟》
午前9時を迎える頃。
共和国軍の海軍艦隊はセルビナ王国の港に接近しようとしていた。
…ここがオルトナの港か。
この町に来るのは今回は初めてだが、
ジェノスと同程度の規模があるようには思える。
…事前情報によると、この港に海軍の本部があるらしいな。
すでに大規模な被害を受けているセルビナ軍を恐れる必要はないと思うが、
まだまだ油断できるような立場ではないからな。
警戒だけは継続しておくべきだろう。
「総員、戦闘準備!セルビナ海軍の抵抗に備えろっ!!」
敵の反撃に備えて、
全ての船と乗組員達に指示をだしてみたのだが。
「「「「「………。」」」」」
こちらの警戒が虚しくなるほど、
港に集結していたセルビナ軍の戦力は微々たる数でしかなかった。
…これはどういうことだ?
本来ならばここは海軍が拠点を構える危険地帯のはず。
噂では数万に及ぶ海軍が防衛部隊を配備させているはずだったのだが、
俺の目で確認できる範囲で言えば僅か数千でしかない。
それも港の各所に展開している為に、
各部隊毎に見ればかなりの小数に思えるほどだ。
「どこかに伏兵を隠しているのか?」
「…いや、おそらく違うと思う。」
戦力を温存している可能性を考えたのだが、
どうやらそうではないらしい。
「…おそらく、あれが精一杯の戦力なのだと思う。」
傍にいた飯塚駿一が教えてくれたのだ。
…あれで精一杯だと?
「いくらなんでもそれは少なすぎないか?」
「…それだけ前回の海戦が惨敗だったということだ。」
…ああ、なるほどな。
飯塚駿一もそうだったが、
多くの海兵は敗戦によって海を流されて衰弱しているのだろう。
必死に陸地へと到達した者達も疲労や怪我によって弱り切っているのは間違いなく、
まともに戦える戦力がごく一部なのは当然かもしれない。
「おそらく…あれが精一杯のはずだ。」
…僅か数千が精一杯か。
それがセルビナ海軍の現実らしい。
「…これは困ったな。」
弱り切った海軍を見てため息を吐いてしまう。
「せめて…せめて生きていてくれれば良いんだがな。」
一人でも多くの生存を願って行動していたのだが、
海に沈んで死亡した可能性を否定することは出来なかった。
…やはり全員生存は望めないか。
こちらが手を出さなくても犠牲は避けられないのだろう。
…だが、努力を続ければ救われる命はあるはずだ。
今はそう信じて、艦隊を港に進ませることにした。




